一橋大学大学院 ソーシャル・データサイエンス研究科 教授
その通りです。ただ、先を急げばいいというものでもありません。まずは国内で十分な議論を交わさなければ、海外との協議に入れません。国によって課題の捉え方が違うからです。
例えば日本には富士山があります。いつ噴火しても不思議ではない活火山です。大規模噴火時のシミュレーション動画は内閣府も公開しており、ご覧になったことのある方も多いのではないでしょうか。噴火すれば、降灰による交通網の遮断、断水など、広範囲でライフラインに甚大な被害が予想されますが、最も懸念されるのは大規模停電です。非常用発電設備を含む電力供給システムが停止すれば、膨大なデータの損失は十分にあり得ることです。
日本には111の活火山が点在していることに加えて、台風、地震、津波、洪水などの可能性を挙げれば、世界的にも珍しいほどの災害大国です。データセンターを安全かつ確実に維持、運用し続け得る場所は、国内にはほぼ存在しないとも言えるかもしれません。かといって、国の安全保障関連など、機密文書を海外のデータセンターに全て預けるわけにもいきません。
一方で、ヨーロッパなどは比較的自然災害の少ない地域ですが、戦争によるリスクを検討しなければいけないという切実さを抱えています。また、政府のデジタル化において常に上位である韓国は、2025年9月のデータセンターの火災により政府文書を8年分消失するといった事故を経験しています。
地理的、物理的な環境だけでも大きな違いがあるうえ、さらに文化や宗教、国民性、政治思想にも差異があります。そのような中では「悪」の概念や、その受容性も当然異なります。国際社会レベルでのガバナンスシステムの整備や、国際AI法の立法過程などは、高度かつ複雑であり、拙速な進行は許容されないのです。
少なくとも3年間、新たに生じた「悪」に対する日本社会の意識の変遷について調査してきた。もし立法府や行政府が認識していないことがあれば、何らかの形で伝えていく必要があるこれまで本研究メンバーは、生成AIの利活用と法規制に関する発表や学会運営を国内外で積極的に行い、ハーバード大学で国際研究集会を開催したり、国際会議で積極的に議論をしたりと、世界各国の研究者らと意見交換を重ねてきました。分野横断的に様々な観点から議論を押し進める重要性を痛感しているので、現在は法学以外の領域の研究を含めて議論ができるプラットフォームを構築しようとしています。また、関連領域の研究者や実務者の協力を得て、クロスボーダーで討論する国際シンポジウムを実施することも目標のひとつです。
加えて、この研究グループのホームページを開設し、多くの分野の方からコンタクトをとっていただけるようにして、議論の可能性を広げていこうとしています。もちろん一般の方もアクセスできる形で情報のアップデートを行い、社会全体としてのリテラシー向上に貢献できればと考えています。
研究成果については、整理、体系化して冊子として公表することになりました。他にも本研究の報告書を幅広くご活用頂けるようオンラインで配布できる形でも提出する予定です。なお、研究会の報告書は以下からダウンロードできます!
https://sites.google.com/view/perilsofai/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0
大規模な社会調査を実施できたことや、全国で開催された関連する研究集会や国際会議に参加できたことは、この特定領域研究助成に採択され、ご支援いただいたおかげだと心から感謝しております。
AIにまつわる研究は、日々刻々と状況が変化しており、年々やるべきことが増えていきます。その中で、細かく設定した研究計画に沿って最初から最後まで研究を進めることは極めて困難です。私も初年度には全く想定できなかった調査を実施したり、当初はメンバーに入っていらっしゃらなかった先生を共同研究者としてお迎えしたりすることができました。
そうした変更をセコム財団が柔軟に受け入れてくださったこと、有意義なご助言をいただきながら自由に研究をさせてもらえたことは、本当にありがたいことでした。
また、研究助成贈呈式では全く接点がなかった異分野の先生と交流の機会を持つことができましたし、セコム科学技術振興財団の助成を受けている研究は社会的な信頼度も上がるので、非常に大きな恩恵をいただいたと感じています。
研究チームには多分野の専門家がいるが、メンバーではない先生にご意見を伺いに行くことも多々ある。サイバーフィジカル空間とAIにまつわる「悪」についての研究は、本当に幅広い専門知識と一般ユーザーの問題意識があってこそ前進していく