仮想通貨のセキュリティ法制構築:仮想通貨の強制執行と海外仮想通貨交換業者の監督
久保田 隆 先生

早稲田大学 大学院 法務研究科 教授

3つめの、スマートコントラクトにおけるプライバシーの確保とは、どのような問題でしょうか。

スマートコントラクトとは、仮想通貨の基盤技術であるブロックチェーン上で、一定の条件が満たされると自動的に契約を締結・執行するコンピュータ・プロトコルです。改竄が困難であることから契約の信頼性は高まりますが、契約に必要な個人データがすべてプラットフォームに蓄積されることから、ビッグデータの不正使用や情報漏洩など、プライバシーの確保に対する問題が指摘されています。

従来の契約とスマートコントラクトにおける契約の違い

紙幣や硬貨には個人情報は残りませんが、仮想通貨の送受信はユーザー情報と切り離せないため、金融分野の新たな課題となっているのですね。

はい。現時点ではプラットフォーマーの責任に関する議論が多くなされていますが、本研究では先の2つの課題解決とあわせて、3年目のテーマとして「プライバシー侵害の回避と利便性の高いサービス提供を両立できるシステム」を、暗号学と法学の両方からアプローチしていく予定です。

また、この分野の日本人研究者は、なぜかあまり英語で発信しないため、せっかくの研究成果が海外の研究者に伝わっていません。そこで、最終的には研究成果をまとめた書籍を、日本語と英語で発行できればと考えています。

技術革新によって社会システムが変化するように、法律も今後どんどん変わっていくのだと思いますが、どのような変化が望ましいのでしょうか。

法律は秩序を守るためのものですから、社会の変化に合わせて、つねに適切な形へと塗り替えていかなければなりません。ですが、技術革新のスピードがいかに早くとも、現在の法秩序を壊してしまうような大改革を性急に行うべきではないと考えています。

私は法律の専門家として「新しいシステムを誕生させる」方向に積極的に舵を切るのではなく、他分野と連携によってあらゆるリスクを想定し、社会が先端技術を安全に利活用できる実効性ある法制度を構築することが、自分の役割だと思っています。

それでは最後に、セコム科学技術振興財団へのメッセージをお願いします。

文系の研究者から見れば、助成金の金額が「桁違いだ」と驚くかもしれません。ですが、海外での情報収集活動や意見交換、シンポジウムを複数回開催するためには必要な金額でした。また、海外の研究者や、理系をはじめとする他分野の専門家と交流し、ネットワークを築くことで、自分の世界が大きく広がります。「セコム財団の研究助成制度に採択されれば、世界が変わる」といっても、過言ではありません。

理系のファンドというイメージが強いかもしれませんが、文系にもオープンになっているので、ぜひ文系の研究者の方々に挑戦してほしいと思っています。

セコム財団の研究助成制度は、文系の研究者にとっては従来の研究予算を一桁増やし、新しい世界に飛び込む絶好のチャンス

長時間のインタビューにお答えいただき、ありがとうございました。技術革新とともに目まぐるしく変化する金融の世界において、先生のご研究のもと、安全・安心なシステムと法制度が構築されることを願っています。