AI、ゲノム編集等の先進科学技術における科学技術倫理指標の構築
横山 広美 先生

東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構
教授

助成期間:平成31年度~ 科学技術倫理 STS(科学技術社会論) AI倫理 ELSI 研究室ホームページ

東京理科大学理工学研究科物理学専攻満期修了退学。2004年9月、高エネルギー素粒子物理学実験で博士(理学)。その後、専門を科学技術社会論に変更。東京工業大学研究員、総合研究大学院大学葉山高等研究センター上級研究員を経て、2007年4月に東京大学大学院理学系研究科准教授となり、2017年4月より現職。同大学院情報学環・学際情報学府教授も務める。

まず、先生が物理を志された経緯について教えてください。

私はカトリック系の学校に通っていて、毎日お祈りをしていたのですが、中学に入ると「神様はどうやってこの世界を作ったのかな」と疑問を持つようになりました。いまだったらググってすぐにわかってしまいますが、不思議に思っている時間が長かったのが良かったようです。

それが、中学2年生のときに、友人のお母様に薦められた科学雑誌の記事で、初めて科学的な宇宙論に触れました。宇宙誕生を物理学で議論できることに大きな衝撃を受けたのです。その後、数カ月で物理学の一般書70冊ほどに目を通し、内容の一部をノートにまとめていきました。誰かに見せるためではなかったのですが、楽しかったですね。同じ学年に一緒に物理を語る仲間も4 人いました。ただ、小学生のときは児童作家に憧れていましたし、当時は科学者よりも文章を書く仕事に就きたいと考えていました。また、科学と社会の複雑な関係にも早いうちから関心があり、高校時代の宗教の時間には「世界には飢饉で苦しむ国があるのに、宇宙開発に巨額をかけるのはなぜか」といった議論をした記憶があります。とりわけ物理学は原子力爆弾との関係は切り離せません。そうした中で、科学の面白い点も難しい点も伝えながら、批判的に議論する科学ジャーナリストを志すようになりました。

宇宙の成り立ちについて、何も知らない期間が長かった。けれど、その期間があったからこそ、科学の醍醐味である“発見の喜び”を味わうことができたように思う

科学者よりも、科学ジャーナリストになりたいと考えられていたのですね。

はい。科学と社会の関わりに関心があり、その橋渡しをしたいと考えたのです。

そのためには、科学の深い知識を身に付けなければならないと考えました。何より物理に憧れたので、大学では物理学を専攻し、素粒子のニュートリノについて研究しました。修士で就職も考えたのですが、将来別の方面に行くにしても博士課程まで進んだ方が良いとアドバイスをいただき、進学しました。スーパーカミオカンデを用いた10か国による国際実験で、150人の仲間たちと研究をしました。梶田隆章先生もメンバーで、小柴昌俊先生から続くノーベル賞グループという環境で、科学と科学者のすごさを知ることができたのは大きな財産です。

研究を行う傍ら、科学雑誌の記事執筆も担当するようになりました。そして、博士号を取得してからは大学の研究員を務めながら、科学ジャーナリストとして本格的に活動するようになったのです。

スーパーカミオカンデを用いた実験では、国際的なメンバーで、世界でもトップレベルの研究に取り組むことができた。研究者として育ててもらったことに感謝している

念願の科学ジャーナリズムに携わることができたのですね。科学技術社会論を研究されるようになった経緯について、教えてください。

博士課程が終わる頃に、高エネルギー物理から科学技術社会論に行かれた先生に声をかけていただいて、科学技術社会論の研究員に採用していただいたのがきっかけです。先ほどお話したように、私は科学ジャーナリストとしての活動を本格化させていたのですが、楽しい夢がかなった時代はわずか2年でした。すぐに東京大学に就職することになったのです。

そして、ちょうどこの頃、多くの先人の努力によってサイエンスコミュニケーションの新しいムーブメントが日本の学術界に取り入れられました。これを受けて東京大学大学院でも必要性が意識されるようになり、声がかかったのです。新しい分野として大きな可能性を感じました。

しかし、分野を変更して研究をスタートさせるのには苦労しました。他分野の先生方にも大変お世話になり、また、有能な共同研究者とタッグを組むことで研究手法を確立していきました。現在もいろいろ手探りで、物理学者と組んで新しい解析手法を取り入れるなど、日々工夫をしています。

現在のカブリIPMUに着任してからは、物理学や数学におけるジェンダーの問題に関する研究に取り組み、JST(国立研究開発法人 科学技術振興機構)のRISTEX(社会技術開発センター)に採択されました。また、研究成果は近年のJSTの顕著な成果として2022年度のJST成果集で紹介されるとともに、文科省発行の科学技術・イノベーション白書(2022年度)にも掲載されるなど、評価いただきうれしく思っています。このほか、科学者信頼やビッグサイエンスの社会論など、いくつかのテーマを長く追いかけています。

そんな時、セコム科学技術財団の助成金があるとお声がけをいただき、応募をさせていただきました。先端的な科学技術研究、たとえばAIやゲノム編集におけるELSI(Ethical Legal and Social Issuesの略、倫理的法的社会的問題群とも呼ぶ)の測定や数値化に取り組むこととなりました。Score ELSIプロジェクトと呼んでいます。