ゲノムデザイン研究における開かれたガバナンスの再考
三成 寿作 先生

京都大学 iPS細胞研究所 上廣倫理研究部門 特定准教授

先生は研究者としてご活躍されるだけではなく、プログラム・オフィサー(PO)の仕事も手がけておられますね。

「どうすれば研究者が生き生きと挑戦的な研究に取り組めるのか」という問いが常に頭にあり、公的研究資金配分機関においてプログラム・オフィサーとしてそのお手伝いができればと思っています。

POのやりがいには、新規の研究プログラムや研究事業を通じて、研究領域の枠組みや仕組みを検討できること、採択された研究課題を中心に様々な研究活動を支援・調整できることなどがあります。例えば、研究プログラムや研究事業の枠組みや仕組みのあり方によっては、若手研究者やELSI領域の研究者などにも一層光が当たる可能性があります。このような取り組みは、様々な研究者をつなぎつつも研究領域を育むという意味において、「1つの組織文化を皆で作っている」と表現できるかもしれません。

本研究助成の理念にも通じる話です。特にこの特定領域研究助成では、個人の研究が完結することよりも、新しい分野の発展を期待しています。

セコム科学技術振興財団の研究助成には、「挑戦」が許される雰囲気を感じました。また研究課題の設定においては、社会とのつながりが重視されているように思いました。私は、社会のなかで科学技術がどのように取り扱われるべきかについて追求していますので、その理念に強く共感しました。本研究に参加している先生方(四ノ宮先生、吉澤先生、横野先生、藤木先生、高嶋先生)も同様の考え方を持たれているように思います。また選考委員の方々から温かく見守られていることを、大変うれしく思っています。

科学技術の領域とは異なり、目に見える成果が次々と登場するわけではないELSIの領域は、存続や継続的発展のうえで脆弱性を内包しているように思っています。この脆弱性があるにもかかわらず、ELSIの重要性にいち早くご着目・ご支援されていることに深く感謝しています。

ELSIは最先端の科学技術と社会を同時に把握する必要があり、一筋縄ではいかない領域だと思います。難しさややりがいを感じておられるのは、どんなところでしょうか。

私の研究はいずれも、特定の科学技術のフロンティアを予測して潜在的な課題や対応方針について言及するというものです。このためには、科学技術が発展する軌道を推測し、社会とどのように接するかを予見する必要があります。また個別的な対応のみならず、より普遍的な対応が図れるように意識する必要もあります。しかし、科学技術も社会環境も変化が速いため、当然ながらこのような取り組みは容易ではありません。

また実際には、私自身に使える時間や労力、資金に限りがあるため、その時々で様々な可能性のうち何か1つの事柄に絞らざるを得ません。自説を練っている間も、目的とは全く異なる道を歩いているかもしれないという恐怖感にしばしば襲われます。直感や経験、知識を頼りに主要論点について反芻して、最後は運に身を委ねて原稿を投じてみる。潜在的な、まだ見えていない課題を扱う以上、多くの方から理解や賛同を得ることは期待できないかもしれませんが、少なくとも、私の見ている領域を深く理解されている方数名から読んでもらえるだけで報われます。

最後に、研究者として目指す姿を教えてください。

科学技術の諸分野を拓き、率いてきた研究者のなかには、その成果が社会で「使われ(得)る」段階において、社会との調整の仕方について悩まれた方が少なくないような気がしています。私は、科学と社会の狭間で先達が残したことを学ぶとともに、これまで取り組まれていなかったことを、新たな切り口一つでもよいので、提示できたらと思っています。

バックパッカーとして旅していた二十歳の頃に、イタリアのコモ(Como)で出会った建築家の、「大都会ではなく小さな街であっても、子どもたちを感化するような作品を作りたい」という言葉には本当に心を打たれました。

以来、私も、たとえ小さなことでも誰かを感化するような仕事をしたいと思い続けています。1つはいろいろな人と出会って新鮮な風を作り出すこと。もう1つは、少数派であっても自身の意見を示すこと。今すぐに理解されなくてもよく、何十年か先の未来に、誰かが私が書いたものを読んで「こんなことを考えている人がいたんだ」と思ってもらえたら幸せです。私自身、数十年前の、あまり注目されていない、しかし独創性の溢れる論文に出会ったときには、大いに刺激を受けます。邂逅の瞬間です。

科学技術は、暮らしや文化とも深く結びついているはず。一般の人が科学的思考やその社会的含意に触れられる機会や場を創出したいと考えている

私たちが科学技術の成果を安心して享受できるのは、科学と社会の調和を追求しておられる先生方のおかげであることを実感しました。これからも三成先生の周りでたくさんの新しいつながりが生まれることを期待しております。
お忙しい中インタビューにお付き合いいただき、ありがとうございました。