ELSI(Ethical, Legal and Social Issues)分野
最先端科学技術の社会的・倫理的・法的側面

藤垣 裕子 先生

領域代表者 
東京大学 大学院 総合文化研究科 広域科学専攻
広域システム科学系
教授

STS(科学技術社会論)
科学技術政策 科学計量学
研究室ページ

1990年東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程修了(学術博士) 。同年東京大学教養学部基礎科学科第二助手となり、1996年に科学技術庁科学技術政策研究所主任研究官に就任。2000年に東京大学大学院総合文化研究科助教授、2010年に教授となり、現在に至る。また、2001年に科学技術社会論学会を立ち上げ、2013-2016年度同学会会長、現在も理事を務めている。

科学技術社会論学会を創立

私は高校生の頃「物理学者になりたい」と思っていたため、東京大学理科一類に入学しました。しかし、唐木順三の著書『「科学者の科学的責任」についての覚え書』を読んで衝撃を受けるとともに、物足りなさを感じ、科学者の社会的責任を論じられる人間になることを決意しました。

ただ、1980年代の日本には、私の現在の専門であるSTS(Science, Technology and Society:科学技術社会論)という分野は存在していませんでした。しかし国際的には、国際科学技術社会論学会(4S)が1976年に、欧州科学技術社会論学会(EASST)は1981年に設立されていました。また、最先端科学に対してはELSI(Ethical, Legal and Social Implications)という概念が誕生していました。


欧州では、ELSIはAspectを用い、ELSAと呼ばれている

1988年にDNAの二重らせん構造を発見したジェームズ・ワトソンが、ヒトゲノムプロジェクトの長として、今後の研究の倫理的(Ethical)・法的(Legal)・社会的(Social)・含意あるいは事柄(ImplicationあるいはIssue)に関する研究を、NIH(米国立衛生研究所)の予算を用いて研究すべきだと主張したことが、ELSIの始まりです。

米国では、1990年からNIHにELSI予算が設けられ「全研究開発予算の数%をELSIに用いる」と制定されました。時を同じくしてゴードン・R・テイラー著の『人間に未来はあるか』という生命操作の倫理的問題を指摘した本が話題になり、STSにも関連する議論が盛んに行われるきっかけとなりました。

私個人は東京大学大学院を卒業後、シラバスに「現代社会が抱える問題に対して科学的なアプローチをする」と説明されていた教養学部基礎科学科の第二助手を務めることになりました。さらに、科学技術庁科学技術政策所(現文部科学省)の主任研究官になったことで、海外のSTS分野の研究者と交流する機会に恵まれ、日本にも当分野の学会が必要であることを痛感するようになりました。

こうした背景を元に、2001年に共同研究者の先生方とともに、科学技術社会論学会を設立しました。