効率的な再生医療の提供に向けた政策課題解決のための研究
八代 嘉美 先生

神奈川県立保健福祉大学 ヘルスイノベーションスクール設置準備担当 教授

その合計が、最終的な価格として算定されているということですか。

はい。薬品や再生医療等製品には、安全性や品質を確保するための基準・規制が存在しています。研究室レベルだと、単純に細胞を作り、治療の有効性を確認すればよいのですが、製品として販売し人体に使用するとなると、製品レベルでの安全基準や、製造施設の基準を全てクリアする必要がでてきます。当然、そのための費用も入っていますし、そのほかにも、細胞という“ナマモノ”を扱うがゆえに、輸送なども特殊な条件を考えなければなりません。

具体的にはどういうことでしょうか。

運送費・保管費も、かなりの割合を占めていました。通常の医薬品であれば「低温で密閉状態にする」といった管理方法で済むことが多いですが、再生医療で使用する細胞は、管理方法が複雑になります。その細胞に応じた輸送温度、冷凍保存にするのか常温のままなのか、衝撃を与えてはいけない梱包方法を工夫するなど、考慮すべき課題が増加してしまうわけです。

再生医療製品の原価と関係する規制・指針など

一般的には「大量生産すれば安くなる」という見解が浸透していますが……。

原料の細胞を大量に作製し、バンク化して供給する場合、そのバンク化にも安全性確保などの各種コストがかかります。仮にその対象となる患者さんが10人の場合は、そのコストを10等分することになるわけです。一方、患者さん本人の細胞から製品を作る場合、都度都度で調達しなければなりませんが、細胞をバンクする時のコストは必要なくなります。この場合、バンクを作るコストがスケールメリットを打ち消してしまう可能性が出てきます。

再生医療等製品の高額化の萌芽は、生産のプロセスのいたるところにある、ということですね。

再生医療等製品が既存の薬品の価格体系を考えると高価である、ということは、ある程度はやむを得ない面があります。しかし、形骸化した基準や、安全性の判断に貢献しない検査項目がないか、きちんと考えていく必要があるのではないかと思います。日本の風土からいうと、製薬企業は規制官庁にそうしたことを提言し辛い雰囲気があります。であれば、企業の立場から離れたところで客観的に考え、アジェンダを設定していく必要があるでしょう。医薬品について、基準の科学的な基盤は規制科学(レギュラトリーサイエンス)とよばれる科学が担っています。そうした科学的知見をとりこみながら、議論に資する成果を出したいと思います。

社会に再生医療を届けるために、“産学官”が連携する議論のテーブルが必要、ということでしょうか。

我々の取り組みでは、再生医療等製品に適用されている検査・管理・運送それぞれのステークホルダーを整理し、各々の見取り図をつくることができました。一方で、日本再生医療学会ではミニマムコンセンサスパッケージといって、先ほど言ったような安全性確認・試験で満たすべき精神について、まとめる作業が進行しています。こうした取り組みを踏まえて、再生医療が社会に貢献できるようなフレームづくりをしていければよいと思っています。

再生医療のステークホルダー分布図