低頻度・甚大な自然災害に対する高精度計算に準拠したMR
(複合現実)によるアクティブ避難訓練
浅井 光輝 先生

九州大学 大学院 工学研究院 社会基盤部門 構造解析学研究室 准教授

助成期間:平成30年度〜 キーワード:計算力学 構造力学 研究室ホームページ

2003年東北大学大学院工学研究科土木工学専門博士課程修了。博士(工学)。同年オハイオ州立大学工学研究科機械工学専攻博士研究員、2005年立命館大学工学部マイクロ機械システム工学科助手を経て、2007年九州大学大学院工学研究院社会基盤部門准教授となり、現在に至る。

はじめに、先生の専門分野について教えてください。

私はスーパーコンピューター「京」やGPU計算機を用いて、津波や豪雨など、自然災害によって建造物が破壊されるシミュレーションの開発研究に取り組んでいます。テレビなどで、津波の再現VTRを見たことがある人は多いと思います。そのほとんどに「映像は目撃者の情報を基にイメージで作成しました」といった注意書きがありますが、私は数値解析によって、波の高さから時速、動き方まで、正確な津波の映像を作成してきました。イメージではなく、あくまでリアルにこだわったということです。

その際は「粒子法」を用います。水を粒子の集合体として仮定し、膨大な数の粒子の動きを解析する手法です。粒子は自在に動くため、建造物によって変化する動きまでを再現することができます。

水の動きを粒子を用いて計算するというのは、初めて聞きました。本研究を開始したきかっけは、何だったのでしょうか。

近年、九州北部豪雨(2017年)、西日本豪雨(2018年)、台風19号(2019年)をはじめとする浸水被害が増加し、その度に「逃げ遅れ」が原因と考えられる人災も発生しています。3.11をはじめ、当初から各種避難指示、勧告といった言葉の意味が把握しづらいという被災者の声がありました。行政も被災者の声を反映し、工夫を重ねてきましが、それでも避難しなかった方が多く存在しています。

そのため私は「個人の防災意識を高める必要がある」と考えました。「警戒レベル4が発令されました」「これから来る津波は高さ◯メートル、時速△メートルです」「浸水は□□センチです」と警報が発令されても、防災の専門家ならともかく、一般の方々がイメージするのは難しいでしょう。災害条件を正確に反映した映像を作成し、視覚的に認識してもらう手段があれば個人の防災意識を高めることができるかもしれないと考え、高性能スーパーコンピューターを用いて3次元津波遡上解析を実施し、その結果を用いたVR津波避難体験シミュレータの開発に取りかかりました。

ヘッドマウントディスプレイと座位型の歩行コントローラを用いたVR体験シミュレータについて説明する浅井先生