東京大学 先端科学技術研究センター 准教授
研究者になろうとは思っていませんでした。しかし色々な経緯があり「せっかくこのような国に生まれたのだから」
と、学部4年生の頃に研究に触れてみたら面白くて、そのあと東京大学の生産技術研究所におられる竹内昌治先生の下で本格的に研究を始め、マイクロ・ナノデバイスにおける基礎的な知識や技術を勉強させていただきました。竹内先生は、様々な分野の技術を組み合わせる研究をされていて、それが私と相性が良かったのだと思います。アイデアを実現して問題を解決していく研究の楽しさを知り、すっかり夢中になってしまいました。その時点で、博士号をとって、何かを創って食べていく仕事をしようと思いました。ただ、研究以外にも色々な可能性を追求してみたいという思いや、日本以外の環境に身を置いて挑戦したい気持ちがあり、渡米して大学院に入り直しました。後ろ髪を引かれないために、専門分野も思い切って光物理に変えました。
一つのコンセプトを仕上げるために、持っている資源を集中して具現化する姿勢を学びました。ナノフォトニクスに携わり、ナノレーザーを作っていたこともあります。やがて、光物理のなかでも生命科学に関わる研究に魅力を感じ、博士課程の後半には顕微鏡を作り始めました。このとき製作した、世界で初めて実現した単一対物レンズライトシート顕微鏡は、今の研究にも活用されています。
そうですね。歩んできた道のりが研究スタイルになるのは、多くの研究者の方にも言えることではないでしょうか。ですから、リスクを取って人とは違うチャレンジをすることは、研究者のオリジナリティに繋がると考えています。今、同じ研究室にいる学生さんたち、ポスドクやスタッフの人たちも、一人ひとり専門や背景が異なります。異なる専門分野に触れ、目的に対して、異なる技術や知識の要素をどう取り入れて何を作るのかを意識すれば、新しいアプローチが生まれます。それが私のスタイルであり、好きなことでもあります。分野を越えて研究室に来てくれる人は大歓迎です。テクノロジーが生命科学をドライブする面白さに共感して飛び込んできてくれるのが、一番嬉しいです。
多様な情報がつながってこそ得られる価値は、より大きくなっていくと考えています。マルチモーダル計測とも言えますし、まさに、この領域のキーワードでもある「多階層」でもあります。細胞を扱う研究においても、機械学習(AI)やデータ科学においても、多階層の重要性が意識され始めており、大きな流れになっていると感じます。私は光物理の視点から光核酸バーコードを発案しましたが、別の手法で多階層のシークエンシングに取り組むグループも、世界にはあります。目的を同じくする人たちは、ライバルであると同時に、補完的な存在でもあります。
これからも「得られていない情報を探りに行く」
という本質は変わりません。それに加えて、「何かをつくる」アプローチをしたい気持ちもあります。今はまだ、解析とものを産み出すことは別のステップと思われていますが、それらを繋げていくプラットフォームを構想しています。例えば機能的な分子、機能的な細胞、機能的なオルガノイドを作る。解析からそこまでをつなげられると、新しいインパクトが現れて面白いですね。