東京大学 工学系研究科 化学生命工学専攻 准教授
助成期間:令和2年度〜 キーワード:細胞生物学 ミトコンドリア ニューロン 研究室ホームページ2006年3月東京大学大学院新領域創成科学科先端生命科学専攻博士課修了、博士(生命科学)。同年4月より東京大学研究拠点形成特任研究員。東京大学分子生物学研究所助教、学術振興会海外特別研究員などを経て、2015年3月よりコロンビア大学ポストドクトラルフェローとして、細胞内小器官同士の接触機構及びそのニューロンにおける役割についての研究に携わる。2016年に科学技術振興機構専任研究員となり、2018年より現職。細胞内小器官同士の接触機構及び大脳皮質ニューロンのシナプス形成機構について研究。
遺伝子情報の解析やゲノム編集が進んだ結果、細胞核やゴルジ体、ミトコンドリアといった「細胞内小器官の制御や役割に関連する遺伝子の変異が、様々な疾患に関わっていることが明らかになりました。しかし、複数の遺伝子が要因となる疾患や、環境要因が関連する疾患も多いため、遺伝子の変異がどのように疾患に繋がるのか、その因果関係は未だはっきりとわかっていません。
因果関係を明らかにするためには、細胞を解析して、疾患の直接の原因となる「細胞の機能異常」と「病態」を関連付ける必要があります。特に細胞内小器官の機能異常は、細胞内小器官の形態異常や細胞内小器官同士の接触の異常を伴うことが多いため、細胞内微細構造を解析することで、病気が起こるメカニズムや病態の予測、病因の解明に貢献することができると考え、本研究に着手しました。
ミトコンドリアは、生体内で多くの重要な生化学反応が起こる場です。パーキンソン病などの神経疾患や遺伝的疾患には、この小器官の制御の異常が伴うことがわかっています。
また、ミトコンドリアの内膜はクリステと呼ばれる複雑な折り畳み構造をとっており、この構造の制御がミトコンドリアの生化学反応の制御に中心的な役割を果たしていると考えられています。それゆえ、ミトコンドリアやクリステ構造について明らかにすることで人間の生態機能や病態の解明に貢献できるのです。
はい。特にクリステ構造は、細胞の機能や栄養状態に依存してチューブ状や層状など様々な形態をとり、また細胞種ごとにその割合が異なることが指摘されています。そのため、詳細に調べるためには、立体構造の把握が必須です。
しかし、これまでの研究では、電子顕微鏡によるクリステ構造の断面画像が中心的に用いられ、3次元的な観察や形態の数値化はほとんど行われてきませんでした。その結果、重要な情報が多く見落とされてきた可能性が高いと考えられます。
そこで、本研究では、集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(Focused Ion Beam-Scanning Electron Microscopy)で取得した連続切片電子顕微鏡画像から、細胞内超微細構造を3次元的に再構築する手法を開発しました。簡単に言えば、立体構造(3次元)のミトコンドリアを非常に薄い千切り状態にして、各断面(2次元)のクリステ構造のデータを取得した後、その情報をつなぎ合わせて元のミトコンドリアを再構築することで、3次元的な観察を可能にする、というイメージです。
これまでは取得した膨大な連続切片画像から細胞微細構造を抽出し、手動で彩色するという手法が用いられてきました。しかし、この手法は専門的な知識が必要なうえ、多大な時間と労力がかかります。また、手動で行うことによる個人間バイアスや情報量の圧縮が発生するリスクもあるため、メジャーな方法ではなかったのです。
そこで、本研究では深層学習を用いて、細胞内微細構造のビッグデータから情報を抽出し、ミトコンドリアやクリステ構造を正確かつ迅速に3次元再構築する手法の開発に取り組みました。