先端医学分野
多階層医学プラットホーム構築のための基礎技術開発

桜田 一洋 先生

領域代表者 
理化学研究所 医科学イノベーションハブ推進プログラム
副プログラムディレクター

全員が医療を受けられる社会の実現に向けて

日本は、今でこそ国民全員が医療を受けることができていますが、今後高齢化が進むと、皆保険制度は破綻し、効果が高いとされる高額治療は一握りの富裕層しか受けられなくなってしまうかもしれません。

私が目指すのは、20世紀型の機械論による治療ではなく、個人のスタイルを表すデータを用いたPrecision Medicineを実現し、すべての人々が質の高い治療を受けることができる社会です。

個人の健康状態や生活習慣などの様々な要素を元に、病気を早期に発見し、最適な治療を最適なタイミングで行う。医師が患者の心に寄り添いながら治療を進めるメンタライジングな関係を築く。そうすることで「高いQuality of Lifeを維持したまま天寿を全うする社会」に近づくことができるはずです。

また、21世紀において解決しなければならない問題は、人の健康だけではありません。異常気象による自然災害や地震など、多岐に渡ります。そうした分野においても、データによるアプローチは「現在の状態」を把握し、「将来のリスク」を予測することで、「今、なすべきこと」を教えてくれます。

たとえば「A町のスタイルのデータ」があれば、そのデータを解析することで「A町で火災が発生したときにどうなるか」を予測できます。「広範囲の建物が燃えてしまう」「ある地点で延焼が止まる」など、町が抱えているリスクを事前に予測できれば、防災計画に反映させることで、A町の安全・安心が高まります。

本領域のコンセプトは、人の健康のみならず、あらゆる社会的課題に貢献できるのです。

イノベーションは、従来の価値観からは生まれない

研究者になって約20年、私は従来の科学の枠組みに限界を感じ、自らの環境を変えるべく転職を決意しました。そして、長年培ってきた研究成果と社会的地位をすべて捨て去り、ゼロの状態に戻って、生命の多階層問題について10年間考え抜きました。その結果、今に至っています。

新しい科学を生み出す覚悟がなければ、本テーマに行き着くことはなかったと断言できます。

焦らず、純粋な目でバイアスをかけずに対象を見ていけば、いつかRealityに繋がっていく

研究とは、本来「わからないものを解き明かす」という自由なものです。私は領域代表者という立場であっても、マイクロマネジメントをするつもりはありませんし、本テーマの趣旨は「良い因果律を見つけること」ではありません。

実験が上手くいかないことは、生命の本質です。4名の研究者には、失敗しても「どこに問題があったか」を追求し、成功したときは「この技術はどこまで使えるか」「どの部分が弱いのか」突き詰めて考えるなど、結果にこだわらず、本質に迫る研究を続けて欲しいと思っています。