多階層性モデルによる肥大型心筋症のリスク予測法と新規治療法の開発
吉田 善紀 先生

京都大学 iPS細胞研究所 増殖分化機構研究部門 准教授

助成期間:平成29年度〜 キーワード:再生医学 循環器 肥大型心筋症 iPS細胞 研究室ホームページ

1997年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院、社会保険小倉記念病院循環器内科勤務。
2006年京都大学医学部附属病院循環器内科助教、2007年京都大学大学院医学研究科博士号取得。2008年京都大学再生医科学研究所再生誘導研究分野研究員、同年同大学物質-細胞統合システム拠点iPS細胞研究センター研究員となる。2009年同研究センター助教、講師を経て、2010年同大学iPS細胞研究所講師、2016年同研究所准教授となり、現在に至る。

先生の研究のご専門と、なぜこの分野に進んだのか、教えてください。

私はもともと循環器内科医です。大学院で心臓の発生の研究をしていましたが、11年前に京都大学再生医科学研究所の山中研究室にポスドク研究員として参加し、そこからiPS細胞の研究をはじめました。そこで、循環器内科なのだから、心臓をやってみたらどうだ、とアドバイスをいただきました。現在は心臓の病気、特に肥大型心筋症(HCM)のメカニズムを研究しています。

HCMとは、どのような病気ですか。

HCMは、心臓病の中でもかなり疾患数が多い病気で、500人に1人が患っているといわれています。心臓の壁が遺伝子の異常により分厚くなることで、致死性不整脈による突然死、心不全への移行など、重篤なリスクをはらんでいます。心臓壁の膨らむ部位によってリスクに差があり、死亡するケースは一部です。しかし突然死は、サッカー選手など若いアスリートの心臓発作があるように、若年者にも多発しているため、ハイリスク症例を早期に発見することが重要です。それにも関わらず、どのような症例がハイリスクなのかを正確に予測する方法は、現在のところありません。また、現在の治療法は「対症療法」しかなく、予防や進行抑制の治療法も確立されていません。心筋細胞の肥大、サルコメア構造(アクチンフィラメント、ミオシンフィラメントが交互に重なることによって作られる筋繊維の構造)の組織化不良などの「細胞レベル」での異常が、心筋細胞の錯綜配列、心筋壁の肥大といった「組織レベル」での病態にどう繋がるのかが、わからなかったのです。階層が異なるモデル、多階層モデルの構築が、病態解析のために必要と考えています。

サルコメア構造模式図

そのようなHCMのメカニズムを、どのようにして解明するのですか。

HCM患者からiPS細胞をつくって、心筋細胞を作製すれば、HCMの遺伝子異常を持つ心筋細胞ができます。重篤なリスクのある患者の心筋細胞同士を比較することで、両者に共通する因子を見つけ出すことができれば、創薬や新規治療法の開発に繋げることができると考えています。

これまで、iPS細胞によるHCMの病態再現モデルは、二次元培養によって構築されてきましたが、従来の方法でのiPS細胞由来心筋細胞は、細胞の成熟度が低く、細胞により性質がばらついた不均一な集団になるなど、病態解析を行うためには様々な問題点がありました。齊藤博英先生(京都大学iPS細胞研究所)との共同研究で報告した「合成RNAを用いて細胞内のmiRNAの発現量に応じてレポーター遺伝子の発現を制御するシステム(miRNA-switch法)」を使うことで心筋細胞を純化することにより、より精度・再現性の高い病態モデルの構築が可能になります。