PDLIM2欠損マウスを用いた非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病因病態の解明
田中 貴志 先生

理化学研究所 生命医科学研究センター 炎症制御研究チーム チームリーダー

これまで階層ごとに研究する先生はいても、階層間の相互作用を研究する先生は少なかったと思います。

解析が進むと、肝臓ではじめて炎症を起こすのではなく、腸間膜の時点で炎症を起こしていることがわかりました。腸間膜は、腸管が腹腔内で散乱しないように固定する腹膜の一部であり、腸管に繋がる血管や神経などの通路です。また、小腸で吸収された栄養分を、血管を通じで肝臓に繋げる役割も担っています。腸間膜のどの細胞が反応しているのかを同定できれば、新たな治療法に繋がるかもしれません。肝臓の病気の原因が、実はその手前の腸間膜にある可能性を示すこの結果は予想外であると同時に、NASH病態解析に大きく近づく発見と言えるでしょう。

今後は、タコニック社の腸内細菌のうち、具体的にどれがNASHの原因となっているのかを同定することが目標です。その細菌が免疫反応を亢進させ、炎症反応が制御されない自己免疫疾患の原因となっているのです。NASH病態を解明し、その先の自己免疫疾患治療法にも繋がることを期待しています。

研究を進めるうえで、苦労したことはありますか。

マウスの飼育に、特に苦労しました。タコニック社のマウスの腸内細菌が移植されたマウスは、なぜかお互いが交配しなくなるため、定期的に腸内細菌を移植する必要があります。腸内細菌が生殖作用に関係しているのかは、現在調査中です。

また、通常の理化学研究所のマウスと、タコニック社のマウスの腸内細菌が移植されたマウスを同じケージに入れて飼育すると、マウスが持つ糞食の習性が原因で、通常のマウスにもいつの間にかタコニック社のマウスの腸内細菌が移っています。系統を維持するためには、タコニック社のマウスの腸内細菌を持つマウスは別区画で管理する必要があり、手がかかります。

この特定領域研究助成を、どのような経緯で知りましたか。

領域代表者の桜田一洋先生も理化学研究所の方なので、研究所内のアナウンスで知りました。日本学術振興会の科学研究費助成事業にも、特定の領域を対象とした助成制度は存在しますが、多階層の視点から病気の治療法を研究するものはありません。また、この特定領域研究助成は、複数年で助成を受けられるところに魅力を感じました。

1年に1回審査があるということで緊張していましたが、審査では「どうしたら研究がよくなるか」というアドバイスをいただき、研究を効率化させることができました。とてもありがたく思っています。

1年ごとの審査では、より良い研究結果に繋げるためのアドバイスをもらえる

長時間の取材にご協力いただき、ありがとうございました。
NASH病態が解明され、自己免疫疾患の新たな治療法が発見される日が来ることを、楽しみにしています。