逆問題解の時空間分離同定法と非侵襲計測・非破壊検査への応用
奈良 高明 先生

東京大学 情報理工学系研究科 システム情報学専攻 教授

先生にとって逆問題の魅力はどこにあるのでしょうか。

数理と計測を一体として考えることによって、新しい原因特定の方法論を作ることができ、今まで見えなかったものが見えるようになるところです。

まず数理的な工夫によって、逆問題の解を観測可能な量で直接、陽に表す直接再構成公式を導出します。これにより逆問題の解を観測データから順問題的に求めることができます。それこそが逆問題のメカニズムを完全に明らかにし、理論的に解いたことになるので、数理としてはまず重要です。

それと同時に、直接再構成公式を導出することによって、原因をつきとめるために、何を観測量とすべきか、逆問題にとって何が本質的な量なのかがわかります。データは用意されたもの、与えられたものとは考えず、逆問題を解くために何をデータとすべきなのかから考える、いわば、問題自体を解きやすいように作り変えられる自由度がある点に逆問題の面白さがあります。

さらに、そのデータを取得するための計測方法自体が無い場合には、その方法も作ります。自らの視点、自らの方法で見えなかったものが見えるようになり、実際の応用に結び付いたときの達成感は格別で、数理と計測の研究者には最高のフィールドと感じています。

数理では一度問題を抽象化して、応用対象にとらわれない解決法を考えるため、その成果が他の問題にも応用できるという発展も多い

ご研究中は、どのような場面で難しさを感じられますか。

言うは易しなのですが、数学の世界で構築した理論が、現実世界では必ずしもそのまま問題解決の手段にならないことも往々にしてあります。

数理的な発想が役立つ場を探して様々な学会やコミュニティに参加しますが、各々の分野ではすでに最適な方法を極限まで追求しておられますから、簡単には受け入れられません。それでも粘り強く取り組めば課題のありかが見えてきますし、数理的な手法には、通常の発想では出てこない新しい解決策が提供できる力があるため、新しい切り口での解決策を丁寧に説明すると興味を持ってもらえ、共同研究に発展する場合も多いのです。

今回お話しした研究も、これで現場の問題が完全に解決したわけではなく、本当に使われるまでにはまだまだ課題もありますが、そこが挑戦しがいのあるところでもあります。

最後に、セコム科学技術振興財団の研究助成に応募されたいきさつと、助成を受けたご感想を教えてください。

数理的な視点から新しいものを作るという私の思考と、助成の趣旨が一致していたこと。何より、安全安心な社会の基盤を作るという大きな目標に共感して、応募しました。数理分野は、特定の課題の解決や応用というよりは、息の長い学術領域だと思っています。その意味で、「数理分野」と銘打ったこの助成制度に長期的な視座を感じました。

採択されてから今日まで、目標の達成よりも、研究が広がり、発展していくことを歓迎してくださる雰囲気があり、とてもありがたかったです。研究で得た成果が今後さらに発展すると確信でき、社会貢献への道筋が確かなものになったと感じています。

ミーティングでは、領域代表者の合原一幸先生やアドバイザーの先生方から、広い視野での意見をいただけるのがとても有意義で、楽しかった

ご研究の多岐にわたる展開と今後の可能性に、期待が高まるお話でした。お忙しいなかインタビューにご対応いただき、ありがとうございました。