民主制下における地方自治体の情報公開・オープンデータ化と情報セキュリティとの交錯に関する研究
木村 泰知 先生

小樽商科大学 商学部 社会情報学科 教授

現在、研究はどこまで進行されていますか。

政府が全国1788団体を対象とした「地方公共団体へのオープンデータの取組に関するアンケート」という調査を行っており、これを詳細に分析することからスタートしました。その結果、オープンデータの開示請求が全国で3県あり、さまざまな手続きがウェブ上でできるよう整備すること、災害時にはリアルタイムで住民に災害状況の一次情報を開示することなどが、強く求められているとわかりました。

リアルタイムの開示に関しては難易度が高いため、まずは情報の正確性を重視し、できる範囲での開示速度を上げていくことが目標です。また、政党ごとの各議案に対する賛成・反対の判断については、まずは中小企業支援というテーマに絞っての実現を目指しています。

膨大な会議録の中から「何ページの何行目までの文」が「質問文」なのか「答弁文」なのかを見分けなければなりませんが、現在は90%の精度で抽出できることを確認しています。今後は、より難易度を上げた議論構造を考慮した要約にも挑戦していきます。

災害時にオープンデータの需要が多くなることを認識できたことは、大きな収穫と言えそうですね。オープンデータに漏洩してはならない一般市民の個人名などが含まれている場合は、どのように対処されるのでしょうか。

自動的に注意喚起が行えるシステムを、情報工学チームが開発します。膨大なテキストデータから“人名とおぼしきもの”を自動で検知する固有表現抽出という技術が必要となります。人名抽出には、自治体で利用されている文章を用いて、機械学習手法を適用することを考えています。ただ、個人名の取り扱いについては、自治体の方と協議しながら進めています。

また、オープンデータが公開されることで具体的にどのようなメリットがあるのかを、地域住民に正しく理解してもらうことを目的として、地方自治会会議録にLODを応用したデモシステムの構築を目標にしています。

さらに政策学チームは、有権者に対してフェイクニュースに関連する実験を行います。その結果をもとに、情報セキュリティのためのハンドブックを作り、情報公開の在り方を提案する報告書を作成していきます。

この特定領域研究助成に応募されたときのお気持ちや、面接時の感想などを教えてもらえますか。

私の研究分野では、以前からセコム科学技術振興財団は有名だったため、いつか応募したいと思っていました。二次選考の面接では、「自治体ごとに異なるルールが存在する点について考慮していないのでは」という、いわゆる“2000個問題”へのご指摘が印象的でした。一般的には「47都道府県すべてに条例の雛形のようなものが存在し、他の県で施行されている条例は自分の県にも当然ある」と認識されていますが、実際は自治体によって特徴的な条例が存在し、公開方法も異なるため、情報の利活用に格差が生じていることから、連携が難しくなっているのです。

採択の可否に関わらず、著名な先生方から質の高い質問やご指摘をたくさんいただける、とても貴重な時間でした。自身の研究の参考になることはすべてメモをとり、今も大切に保存しています。

最後に、これから申請される方へのメッセージをお願いします。

本助成制度の助成金はかなり大型で、しかも自由度が高く、私が今まで助成を受けた財団の中ではトップクラスと言えます。今回のようにチームを編成して研究する際は、多頻度の打ち合わせが欠かせませんが、旅費や人件費への適用が許されるため、大変助かりました。

また、採択に関係なく、とても著名な選考委員の先生方から意見を直にもらえるだけでも、大きな価値があります。もし落ちてしまったとしても間違いなく正しい評価をいただけますから、まずは挑戦されることをおすすめします。

審査員の方々に研究の評価をしてもらえるので、申請するだけでも価値がある

長時間の取材にお付き合いいただきありがとうございました。
LODが完成し、市民の行政参加が促進されることを願っております。