ハイブリッド・メディア空間でのリアルタイム・テクノロジーアセスメント技術の開発
田中 幹人 先生

早稲田大学 大学院 政治学研究科 ジャーナリズムコース
准教授

先生はなぜ、科学技術社会論(STS:“Science, Technology and Society”または“Science and Technology Studies”)を専門分野としたのですか。

私は学生時代からいろいろな分野の学問に首を突っ込みつつ、ライターやウェブサイト作成など、メディアに関わるさまざまな仕事をして生活費の足しにしていました。生命科学分野の研究で博士課程を修了した後は、国立精神・神経センターで筋ジストロフィーなどの研究に3年近く携わりましたが、患者さんとの関わりの中で、倫理学や社会学への興味が再燃したこと、純粋な「科学研究」への自分の適性への迷いなどもありました。

そして2005年、科学技術振興調整費の事業として早稲田大学が「科学技術ジャーナリスト養成プログラム」を開始し、助手を公募しました。自然科学の博士号を持ち、メディア業界での経験もあった自分は、その条件にぴったり当てはまりました。文系と理系の両方に関わる学際分野に惹かれて応募し、採用されたことが、この分野に入ったきっかけです。

文系と理系、研究とメディア活動……幅広い知識と実戦経験をお持ちの先生が、まさに「来るべき場所に来た」という感じですね。

ライターをしていた頃、指導してくれたデスクからは「単に取材対象の言葉を全肯定する“応援団”にはならない」よう、繰り返し戒められました。科学の教育を受けた者として、今でも基本的な科学という知の仕組みそのものは信頼していますが、同時にその技術によって誰かが何かの被害を受けたり、問題を悪化させてしまう可能性を踏まえた研究のあり方は、まだ充分に科学に組み込まれていないとも思っています。ですから、科学的に科学のコミュニケーションを研究しつつ、同時に批判的視点を持ち続けたいとも思っていますし、少なくとも自分の中では、過去の経験と現在の実践、教育、研究のすべてが繋がっています。

先生のような経歴をお持ちの研究者は、なかなかいないと思います。

いわゆる理系でも文系でもない立場の研究者は、海外にはたくさんいます。日本でも、こうした分野の重要性は認識されつつあり、興味を持つ学生や研究者が徐々に増えてきたと感じています。しかし、ことに実際に研究を行っている人間は、おそらく日本ではせいぜい300人程度ではないでしょうか。なかなかこの研究を対象とする助成制度がないことに頭を痛めていました。

本研究は、科学技術社会論の理論を背景に、既存の定量的手法を組み合わせて課題解決の仕組み作りを行うものです。計算機科学分野、社会学分野の研究に対する助成金制度はそれぞれにありますが、2分野を組み合わせた研究となると、審査できる先生も少ないため、なかなか採用されませんでした。

そのため、大学を通してこのセコム科学技術振興財団の特定領域研究助成を知った時は「こんな助成制度があったのか」と、興奮しました。

ELSIに関わる研究と実践に大きく寄与する今回のご研究は、特定領域研究助成、ELSI分野のテーマに完全に合致していました。

おかげさまで、研究が大きく進みました。さらに、こちらからの質問に対するリアクションがとても早く、必要書類の説明なども分かりやすかったため、事務手続きの面でもたいへん助かっています。近い将来、別の研究テーマで、また応募したいと考えています。

「新たな技術を開発する」よりも、既存の技術を組み合わせることで、課題解決の手段となる「新たな仕組みの構築」を目指す

たいへん興味深いお話を、ありがとうございました。
今後、ELSIおよびSTS分野の研究が活発になり、
社会が科学技術を適切にコントロールできる未来が来ることを期待しています。