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サプライチェーンからフェイクチップを排除する電磁的フィンガープリント技術の開発 (第1回)

奈良先端科学技術大学院大学

Yuichi Hayashi

現代人の生活は無数の電子機器によって支えられているため、正常に動作しないことが大きなリスクになるのですね。2つ目のEMFP計測システムの開発は、どのように進められたのでしょうか。非接触・非破壊・非侵襲とおっしゃっていましたが、半導体チップは機械の奥の方に設置されているイメージがあります。

すでに組み上げられた電子機器を、半導体チップが見える状態まで分解し、計測器を直接当てて測定するという方法は現実的ではありません。機器を破壊することなく、「経年劣化によって変化した電磁放射の特徴量」に関する情報を含むEMFPを取得することが求められました。その計測基盤を構築することが、奈良先端大のチームの役割でした。

奈良先端大のチームは、「弱い電磁波を照射し、跳ね返ってきた信号の変化から対象の状態を推定する」という、バックスキャッタリングを活用した手法を考案しました。これは、身体の外側からX線を照射して内部構造を可視化するレントゲンやCTの電磁波版に例えることができます。この手法により、非接触・非破壊・非侵襲での計測が可能となります。製品によっては筐体によって外部からの電波を遮断している場合もありますが、その場合でも、内部から外部に接続されているケーブルや電源線、通信線などを介して電磁波を伝搬させ、測定することが可能です。

「弱い電磁波を半導体チップに照射する」というのは、挑戦的研究助成を受けてご研究されたときに用いていた手法ですか。

そうです。私が2017年に研究室を立ち上げた際、弱い電磁照射が暗号デバイスをはじめとする情報通信機器に与える影響について研究を行い、ご支援をいただきました。半導体チップに弱い電磁波を照射し、わずかな電気的変動をモニタリングする環境の構築は、その際に確立したものです。

その研究成果を基盤として、その後もさまざまな研究へと発展し、複数の論文成果につながりました。今回のバックスキャッタリングを用いた手法も、当時確立した計測技術を応用したものです。挑戦的研究助成によるご支援がなければ、この技術は生まれていなかったといえます。ご支援に深く感謝しています。

電磁波遮断室でのバックスキャッタ基礎技術の実験。弱い電磁波を放出するアンテナ(向かって左側の奥に設置されている)とパソコンのキーボードを離れた位置に配置し、キーボードの「A」を打つ。すると半導体チップから「Aを打った」という信号が発信され、その信号情報を含んで跳ね返ってきた電磁波をアンテナが受信する

クロックの立ち上がりや、I/Oのスイッチングが鈍化していることは、どのように判別するのでしょうか。

クロックやI/Oが正常に動作している場合には、一定の電磁波スペクトルが観測されます。一方、経年劣化が進むと、「正常時には確認できていたピークが減衰する」「高周波成分が弱まる」といった変化が現れることがあります。正常時と比較した周波数特性の差異から、内部の物理量の変化を推定することが可能です。

また、周波数領域だけでなく、時間領域や位相領域での計測も行いました。とくにCPUに用いられる半導体チップには、暗号処理回路が組み込まれていることが一般的です。暗号回路が動作する際には、時間領域や位相領域に特徴的な波形が現れるため、経年劣化による変化を比較的高感度にモニタリングすることができます。

受信した電磁波を周波数解析すると、特定の周波数成分にピークが現れる。経年劣化によって信号の立ち上がりが鈍化すると、このスペクトルの広がりや分布に変化が生じる。左は、EMFP計測技術の開発に携わった鍛治秀伍助教

劣化によって生じる物理現象を特定し、その現象を捉える計測方法を構築して、さまざまなEMFPのデータを集めてきたのですね。わかりやすく教えていただき、ありがとうございました。次回は、計測したEMFPから真正性や経年劣化量を特定する手法や、半導体チップを劣化させる研究、既存技術との関係や今後の展開についてお伺いします。

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