所属
奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 情報科学領域

職名
教授

キーワード
サイドチャネル攻撃 電磁環境 電磁情報セキュリティ 意図的な電磁妨害

助成期間
平成29年4月─平成32年3月

研究室ホームページ
2009年3月

東北大学大学院情報科学研究科 応用情報科学専攻 博士後期課程修了 博士


同年 4月

東北大学大学院工学研究科 研究支援者


2012年4月

東北大学電気通信研究所 研究支援者


2012年12月

東北大学大学院情報科学研究科 准教授


2015年4月

東北学院大学工学部 准教授


2017年4月

奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授


2018年4月

奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 教授



新しい研究室で、今までと違う研究を決意

私はもともとアマチュア無線などの“人と人を繋げることができる技術”に興味がありましたが、情報分野への興味が高まったのは、インターネットが商用化された高校生のときです。情報通信について本格的に学びたいと思い、大学では情報通信ネットワークを専攻しました。大学院に進学した際に専門を電磁気学に移しましたが、学位論文を執筆する傍ら情報セキュリティに関する研究会にも時々参加していたため、博士後期のころには電磁気学・情報通信ネットワーク・情報セキュリティの3分野の知識を持つようになりました。

研究者になってからはその知見を活かし、サイドチャネル攻撃(機器が暗号処理を実行する際に生ずる放射電磁波や消費電力、処理時間などの情報を解析することで、暗号処理に用いられる秘密鍵情報を取得する攻撃手法)に対する耐性評価や、情報通信機器から生じる微弱な電磁波を介した情報漏えいを抑止する研究などを経て、2017年に奈良先端科学技術大学院大学に教授として着任しました。そのとき、新たに研究室を立ち上げるにあたって「今までとは異なる研究に取り組もう」と決意しました。

それまで私は、情報機器から生じる電磁波を起因とする脅威や対策方法について研究していました。その電磁波の向きを逆に考え、外部から電磁波攻撃を受けたときに生じるリスクについて知りたいと思ったことが、本研究を始めたキッカケです。

電磁波伝搬の向きを逆に捉えることで、新しい研究テーマが生まれた電磁波伝搬の向きを逆に捉えることで、新しい研究テーマが生まれた

弱い電磁波による妨害であってもセキュリティを低下させる脅威となる

あらゆる電子機器には外部の電磁波に影響を受けないよう、一定の耐性が備わっています。しかし、耐性許容量を超える大電力電磁環境(HPEM:High Power Electromagnetic)に電子機器が曝されると機能を破壊もしくは停止させる脅威となります。そのため、HPEMを用いた情報通信機器への攻撃に関する研究が世界中で広く行われており、対策手法も検討されています。

一方で、HPEMよりも3桁ほど小さい、数v程度の弱い電磁波を用いた攻撃も存在します。

例えば、特定の周波数の電磁波を暗号デバイスに照射すると、電子機器を故障させることなく任意の誤作動を誘発し、暗号鍵を取得できる可能性があります。このため、セキュリティ分野においては電磁波をはじめ、機器に対して意図的な外乱を与え、暗号デバイスのセキュリティを低下させる攻撃法および対策法を検討している研究者が多数います。その一方で、暗号デバイス以外、たとえばタブレットなどの一般的な情報通信機器に対する影響については、十分な検討がなされていません。

私は、弱い電磁照射の脅威は暗号デバイスに限らず、さまざまな情報通信機器にも起こると考えています。たとえば、自動車などにおいてはユニット間でやりとりされるディジタル信号が、電磁波攻撃によって異なる命令を書き換えられてしまうと、運転者の意図を離れてアクセルやブレーキがかかるなどの重大事故に繋がる危険性があります。

ただし、こうした研究には、上位レイヤと下位レイヤの両方の知識が必要となります。奇しくも私はその条件を満たしていたため、この研究に挑戦することができたのだと思います。