動脈硬化が石灰化に至ると生存率が大幅に低下しますが、そのプロセスは未解明で、有効な治療法も見つかっていません。
これまで、骨のOPG(破骨細胞の増加を抑制する因子)が欠損すると、骨が溶け出して血管に沈着し石灰化するという説が主流でした。しかし、コンディショナルノックアウトマウスを使った実験やトランスクリプトーム解析により、血管石灰化を制御しているのは骨のOPGではないこと、そして、血管平滑筋細胞と周囲の免疫細胞がRANKL(破骨細胞を作る因子)、RANK(破骨細胞の前駆細胞の表面にある受容体)、OPGを産出し、血管の石灰化を制御している可能性が見えてきました。
そこで本格研究では、血管がどのようなメカニズムで石灰化するのか、そこにどのような免疫細胞が関わっているのかを解き明かすことを目指しました。

ヒト冠動脈石灰化病変の空間トランスクリプトーム解析の結果。赤いリングが血管の断面で、点線で囲った部分が石灰化している。血管石灰化している部分はOPG発現が抜けており、ヒトでもOPGがないところで石灰化が起こることが明確に示された
そもそもOPGの役割は、RANKLとRANKの結合を阻害し、RANKLが細胞に「RANKL/RANKシグナル」を入れるのを防ぐことです。すなわち、血管平滑筋に「RANKL/RANKシグナル」が入ると石灰化が起こる、と考えられます。
ただし注意点があります。OPGがRANKLをブロックすることは確かですが、RANKLではない「何か」、すなわち未知の石灰化因子をブロックして石灰化を防いでいる可能性も、ゼロではありません。その可能性を排除するため、OPGとRANKLの両方を欠損したマウスで石灰化誘導実験を行ったところ、石灰化は起こりませんでした。これにより、RANKLがなければ、OPGがはたらかなくても石灰化は起こらないことが確かめられました。
また、RANKについても同様の実験を行ったところ、こちらも血管石灰化は発症しませんでした。以上の結果から、血管平滑筋細胞にRANKL/RANKシグナルが入ると石灰化が促されることが証明できたのです。

コンディショナルノックアウトマウスの比較により、血管平滑筋細胞にRANKL/RANKシグナルが入ると血管石灰化が促されることが明らかとなった