HOME > 研究者 > 高柳広先生 > 動脈硬化性疾患の骨免疫学的メカニズム解明と新規制御法の開発(第2回)

骨と免疫。両者はあまり接点のない研究分野でしたが、高柳先生は骨と免疫系の相互作用に目を向け、「骨免疫学」という新しい学問領域を切り拓いてこられました。

今回のご研究では、血管が石灰化してしまうメカニズムの解明を目指しておられます。組織特異的な遺伝子ノックアウトマウスや最新のトランスクリプトーム解析を駆使し、血管石灰化の鍵は血管周囲のOPGにあることを明らかにされました。インタビュー第2回では、石灰化の具体的なメカニズムをお伺いするとともに、新しい治療法のアイディアについてもお聞きします。

まずは、前回のおさらいからお願いいたします。

動脈硬化が石灰化に至ると生存率が大幅に低下しますが、そのプロセスは未解明で、有効な治療法も見つかっていません。

これまで、骨のOPG(破骨細胞の増加を抑制する因子)が欠損すると、骨が溶け出して血管に沈着し石灰化するという説が主流でした。しかし、コンディショナルノックアウトマウスを使った実験やトランスクリプトーム解析により、血管石灰化を制御しているのは骨のOPGではないこと、そして、血管平滑筋細胞と周囲の免疫細胞がRANKL(破骨細胞を作る因子)、RANK(破骨細胞の前駆細胞の表面にある受容体)、OPGを産出し、血管の石灰化を制御している可能性が見えてきました。

そこで本格研究では、血管がどのようなメカニズムで石灰化するのか、そこにどのような免疫細胞が関わっているのかを解き明かすことを目指しました。

ヒト冠動脈石灰化病変の空間トランスクリプトーム解析の結果。赤いリングが血管の断面で、点線で囲った部分が石灰化している。血管石灰化している部分はOPG発現が抜けており、ヒトでもOPGがないところで石灰化が起こることが明確に示された

さっそくですが、血管でOPGが欠損すると、なぜ石灰化が起こるのでしょうか。

そもそもOPGの役割は、RANKLとRANKの結合を阻害し、RANKLが細胞に「RANKL/RANKシグナル」を入れるのを防ぐことです。すなわち、血管平滑筋に「RANKL/RANKシグナル」が入ると石灰化が起こる、と考えられます。

ただし注意点があります。OPGがRANKLをブロックすることは確かですが、RANKLではない「何か」、すなわち未知の石灰化因子をブロックして石灰化を防いでいる可能性も、ゼロではありません。その可能性を排除するため、OPGとRANKLの両方を欠損したマウスで石灰化誘導実験を行ったところ、石灰化は起こりませんでした。これにより、RANKLがなければ、OPGがはたらかなくても石灰化は起こらないことが確かめられました。

また、RANKについても同様の実験を行ったところ、こちらも血管石灰化は発症しませんでした。以上の結果から、血管平滑筋細胞にRANKL/RANKシグナルが入ると石灰化が促されることが証明できたのです。

コンディショナルノックアウトマウスの比較により、血管平滑筋細胞にRANKL/RANKシグナルが入ると血管石灰化が促されることが明らかとなった

よく分かりました。ところで石灰化において、周囲の免疫細胞はどのようなはたらきをしているのですか。

血管周囲のトランスクリプトーム解析から、RANKLを作り出しているのは血管平滑筋細胞とT細胞であること、また、石灰化した血管平滑筋の周囲にマクロファージがたくさん集まっていることが分かりました。そこで、免疫細胞であるT細胞とマクロファージに着目し、それらが石灰化においてどんな役割を果たしているのかを調べました。

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