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動脈硬化性疾患の骨免疫学的メカニズム解明と新規制御法の開発(第2回)

東京大学

Hiroshi Takayanagi

今回明らかにされた血管石灰化のメカニズムを裏付ける臨床での実例があれば、教えてください。

骨粗鬆症の治療薬に抗RANKL抗体という薬があります。抗RANKL抗体は、RANKLに特異的に結合してRANKL/RANKシグナルを阻害するため、破骨細胞阻害剤として広く使われています。

骨粗鬆症のもう一つの代表的な治療薬としてビスフォスフォネート系製剤があり、こちらも破骨細胞阻害剤ですが、RANKLとは無関係の薬です。

実際に骨粗鬆症の治療をしておられる患者さんの胸部CTのデータから、血管の石灰化を調べたところ、ビスフォスフォネート系製剤より抗RANKL抗体を使ったほうが、石灰化が抑えられることが確かめられました。

今回のご研究から得られた治療法のアイディアがあればお聞かせください。

骨粗鬆症の患者さんで、血管石灰化のリスクが高いと思われる人には、治療薬に抗RANKL抗体を選ぶことで石灰化が予防できる可能性があります。

さらに一歩進んで、血管のみでRANKL・OPG系を調節する方法を開発すれば、そこから新しい治療戦略が見つかる可能性もあります。

異所性石灰化が原因となる疾患は動脈硬化の他にも、変形性関節症や後縦靱帯骨化症、進行性骨化性線維異形成症など様々なものがある。石灰化メカニズムの解明は、他の難治性疾患の治療にも役立つと期待している

セコム科学技術振興財団の一般研究助成を受けられたご感想を教えてください。

これまで骨と免疫の相互作用をメインに研究してきたので、動脈硬化という循環器系の疾患は初めて取り組む分野でした。血管が骨のようになってしまう病態ですから、骨免疫学における知識や経験がうまく活かせるだろうという予感はありましたが、まだ明確な実績が積めていない状態だったのです。その段階でこれだけ大型の予算をつけていただけるところは、他に見当たりません。チャレンジングな試みを評価して採択していただけたことに感謝しております。

また、どこにお金や労力を費やすべきかは、研究を進めてみないと分からない面があります。その点、助成金の使い方の自由度が高く、好きなようにやらせてもらえたことが大変ありがたかったです。

最後に、これから助成に応募する研究者へのメッセージをお願いします。

一般に、分野横断型の研究は合致する助成が少なく、援助を受けづらい傾向があります。しかしセコム科学技術振興財団ではむしろその点を評価していただき、チャレンジングな計画を採択していただけました。皆さんも、挑戦的で面白いテーマがあればどんどん応募してほしいと思います。

関節リウマチの治療に携わったことがきっかけとなり、「骨免疫学」という学際領域を切り拓いてきた高柳先生。臨床から研究へ活躍の場を移した今も、成果を治療に繋げたいという思いを持ち続けている

血管石灰化のメカニズムが明らかになり、異所性石灰化の疾患に対する新しい治療の可能性が広がっていることが分かりました。長時間のインタビューにご対応いただきまして、ありがとうございました。

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