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動脈硬化性疾患の骨免疫学的メカニズム解明と新規制御法の開発(第2回)

東京大学

Hiroshi Takayanagi

トランスクリプトーム解析によって、石灰化に関わる細胞の種類がかなり絞り込めてきたのですね。

そうですね。まずT細胞の役割を明らかにするために、Rag2ノックアウトマウス(T細胞を含む獲得免疫系の細胞を持たないマウス)で実験したところ、血管石灰化が起こりました。したがってT細胞は石灰化にはあまり関わっていないと考えられます。

もう一つの免疫細胞、マクロファージは様々なサイトカイン(主に免疫細胞から分泌され、免疫反応を調整するタンパク質)を出します。そのなかでもTGF-β、インターロイキン-1、オンコスタチンMなどのサイトカインが石灰化を誘導することが分かってきました。実際に石灰化に至るかどうかは、RANKLとOPG、両者の比率によって決まります。ですからマクロファージの出すサイトカインは、RANKLを増やしOPGを減らす方向に働きかけるということです。

石灰化には、複数の細胞とその制御機構が関わっているのですね。それでは、動脈硬化から石灰化に至る流れをまとめていただけますでしょうか。

血管壁に脂肪が溜まると、マクロファージが集まってきて、脂肪を取り込んで泡沫細胞となり、血管平滑筋周囲で粥状(血管内膜にコレステロールなどが溜まって、粥のようにドロドロしている状態)効果が起きます。活性化したマクロファージからは、RANKLを増やしてOPGを減らすサイトカインが出ます。その結果、血管平滑筋にRANKL/RANKシグナルが入りすぎて、骨芽細胞のような骨を作る細胞に分化転換してしまい血管が石灰化する、というのが一連の流れです。

不思議なことに、血管平滑筋細胞は自分でRANKLを作ってシグナルを入れる一方で、それを阻害するOPGも出しているのです。自分で自分に刺激を入れたり抑制したりして、そのバランスが崩れると石灰化してしまうのです。

左が従来のカルシウムシフトセオリー、右が今回明らかになった血管石灰化のプロセス。血管平滑筋細胞で産生されるOPGがRANKL/RANKシグナルを抑制することで血管石灰化の発症を制御する

血管石灰化のメカニズムが、細胞レベルで理解できました。今回のご研究で特に苦労されたことをお聞かせください。

マウスが血管石灰化「する・しない」を判断する前提として、確実に血管石灰化を起こす条件が必要です。その条件を整えることに苦労しました。

例えばOPGノックアウトマウスはアメリカやヨーロッパでは石灰化が起こりやすく、日本では起こりにくい傾向があります。水が硬水か、軟水かの影響を受けてしまうのです。

初めはマウスに高リン食を与えて実験しましたが、現在はApoEノックアウトマウス(脂質の輸送に関わるApoE遺伝子を欠損したマウスで、動脈硬化を自然発症しやすい)を用いて、食物に左右されない石灰化のメカニズム解明にも取り組んでいます。

テニスやヨット、スキーとアクティブな趣味をお持ちの高柳先生。研究の合間に卓球でリフレッシュすることも
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