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動脈硬化性疾患の骨免疫学的メカニズム解明と新規制御法の開発(第1回)

東京大学

Hiroshi Takayanagi

血管石灰化メカニズムの解明に向けて、どのようにアプローチされましたか。

もともと私たちの研究グループは、遺伝子ノックアウトマウスの作出に力を入れていました。特定の組織細胞でのみ遺伝子を欠損させるコンディショナルノックアウトマウスを用いて、組織ごとのOPGの機能を解析した結果、OPGは骨だけでなく、胸腺や腸管など様々な部位で作られており、各部位で重要な役割を果たしていることが分かりました。そこで、「血管でもOPGが作られており、石灰化を制御しているのではないか」というアイディアが生まれました。

そこでまず、骨で作られるOPGが血管石灰化に関与しているかどうかを確かめるため、骨芽細胞特異的にOPGを欠損させたマウスを作りました。骨芽細胞でOPGが欠損すると骨が溶け出すため、カルシウムシフトセオリーが正しければ血管石灰化が起こるはずです。ところが、このマウスでは血管の石灰化が生じませんでした。

OPGは体の様々な組織で作られ、産出された場所に応じた働きをする

「カルシウムシフトセオリー」とは矛盾する結果になったのですね。

はい。全身でOPGが欠損すると血管が石灰化するけれど、骨のOPGが欠損しただけでは血管石灰化は起こらない。これは、OPGが血管周囲でも作られていることを意味すると考えました。

そこで石灰化していない血管についてトランスクリプトーム解析(組織から細胞やRNAを採取し、そこにある遺伝子を網羅的に解析する手法)を行ったところ、予想どおり血管平滑筋(血管壁を構成する筋肉の一種)の細胞で、OPGがたくさん出現していました。それだけでなく、RANKも血管平滑筋で発現していることや、マクロファージでRANK、T細胞でRANKLが発現していることなど、様々な事実が明らかになりました。

血管石灰化移⾏前の動脈硬化病変のscRNAseqデータを解析した結果、OPGは⾎管平滑筋細胞で、RANKLはT細胞で、RANKは⾎管平滑筋細胞とマクロファージで発現が認められた

血管平滑筋とその周囲にある免疫細胞が、RANKL、RANK、OPGを供給していることが示されたのですね。

そこで、数種類の組織特異的ノックアウトマウスを作製して比較したところ、血管平滑筋特異的にOPGを欠損させたマウスに血管石灰化が起こりました。これにより、血管平滑筋のOPGが血管の石灰化を抑制していることが証明できました。

⻩緑色の部分が⽯灰化した領域。この実験により、⾎管平滑筋細胞が⾎管⽯灰化抑制におけるOPGの主要な産⽣源であることを同定した

先生が整形外科医として臨床に携わられたご経験から、使命感を持って骨免疫学のご研究に取り組んでこられたことが分かりました。次回のインタビューではいよいよ、血管石灰化の具体的なメカニズムをお伺いするとともに、新しい治療法の見通しについてもお聞きします。

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