近年、骨だけでなく、体内組織を構築する様々な構造細胞が、免疫細胞と相互作用していることが明らかになり、構造細胞と免疫細胞の関係性が注目されています。しかし、血管組織における構造細胞と免疫細胞の連関に関しては、まだほとんど報告がありません。そこで、骨免疫学を活かして動脈硬化・血管石灰化の病態を解明できれば、心血管系と免疫系との関係を知るための大きな手掛かりになると考えました。
本来、石灰化は骨や歯などの形成に必要なプロセスであり、血管石灰化は制御機構の破綻によって生じる「異所性石灰化」の一種です。コレステロールを取り込んだ細胞が血管壁に溜まると動脈硬化になり、さらに悪化すると血管が石灰化してしまうことがあります。石灰化した血管は詰まりやすく、脳梗塞や心筋梗塞になったり、血管が破れて脳出血などを発症することもありえます。血管石灰化のスコアが高いほど、死亡率が増加することが確認されているのです。
実はこれまで、骨代謝と血管石灰化のメカニズムは同じものなのか否か、それすら分かっていませんでした。
まず、骨代謝についてご説明しましょう。骨を破壊する細胞を破骨細胞、新しい骨を作る細胞を骨芽細胞といいます。先ほど少し触れましたが、破骨細胞を作る因子はRANKLというタンパク質です。これが破骨細胞の前駆細胞の表面にある受容体RANK(receptor activator of NF-κB)に結合することで、破骨細胞への分化を誘導します。ここでもう一つ大切な役割を果たすのが、オステオプロテゲリン(osteoprotegerin、OPG)です。OPGは、RANKとRANKLの結合を阻害し、破骨細胞の増加を抑制する、いわば「骨を守る」因子です。
OPGを欠損したマウスや人は、骨量が減少するとともに血管石灰化が起こることが知られています。この事実から、骨のOPGが欠損すると破骨細胞が増えすぎて骨が溶け出し、放出されたカルシウムなどが体中を巡り、血管にたまって石灰化すると考えられていました。それが「カルシウムシフトセオリー」という従来の定説でした。
近年では、カルシウムシフトセオリーとは異なる、能動的な石灰化プロセスが関与する可能性も考えられています。しかし、血管石灰化におけるRANKL、RANK、OPGの役割や発現細胞は解明されていませんでした。

骨は体を支え、動かすだけではない。骨代謝によって血中のカルシウム濃度を保つ役割があり、骨の中心部にある骨髄では造血幹細胞から様々な免疫細胞が生み出されている