HOME > 研究者 > 高岡晃教先生 >「生体防御シグナル経路を利用したがん選択的細胞死誘導法の確立」(第2回)

生物の体には、外部からの侵入者を排除し、体内での異常を抑制する防御システム「免疫」が存在しています。しかし自己細胞が変質して増殖する「がん」に対しては十分に免疫の力が発揮されず、さまざまな治療法が開発されていますが、その多くは正常細胞への影響が課題となっています。

第2回では、合成RNA投与によるがん細胞への特異的な細胞死誘導のメカニズムについて、これまで解明されたことを詳しくご説明いただきました。

前回のおさらいとして、研究の概要をもう一度教えてください。

私たちは自然免疫系における核酸センサーを活性化する合成RNAリガンドを投与した際、正常細胞には影響を与えず、がん細胞に特異的に細胞死を誘導することを、細胞および生体レベルで確認しました。

また、合成RNAによって腫瘍が縮小したマウスに対して、再度同じがん細胞株を投与しても症状の進行が見られなかったことから、適応免疫系の活性化も誘導されていることが示唆されました。

この仕組みを解明し、本来の感染防御に働く自然免疫シグナルを利用して、がん細胞に特異的に細胞死を誘導する新薬の開発に繋げられるよう、研究を進めています。

その仕組みの解明は、現在どこまで進んでいるのでしょうか。

関連する自然免疫センサーが活性化されると、細胞内にシグナルを伝達し、次にアダプター分子や転写因子群が活性化されて、さまざまなサイトカインなどの遺伝子の発現が誘導されます。

そこで、このセンサー分子の各種変異体を使った実験や、アダプター分子の発現を操作することで、この合成RNAによる細胞死のシグナル経路を明らかにすることを試みました。

専門性の高い話になってしまうため詳しい説明は省きますが、結果として、どうも従来のシグナル経路とは異なる新しい経路を介している可能性が示唆されました。

従来のシグナル経路とは異なる、未知の経路が存在する可能性が出てきたのですね。

合成RNAリガンドのセンサーは介するものの、既知のシグナル分子が存在しなくとも、がん細胞にのみ細胞死が起こることを確認しました。

つまり、このメカニズムはまったく新しいシグナル経路の中に存在していることが示唆されたのです。

この未知のシグナル経路を解析するために次に着目したのが、がん抑制遺伝子として知られている「p53」です。

新たなシグナル経路を解析することによって、より効率的にがん細胞の細胞死を誘導できると考え、研究を進めた

がんは際限なく増殖するイメージがありますが、それを抑制する遺伝子があるのですか。

生体には、何らかの理由で細胞の遺伝子が損傷したとき、その細胞の増殖を防ぐために細胞死させる仕組みがあります。このメカニズムに関わっているのが、細胞死を誘導する転写因子p53です。抗がん剤の投与やX線照射、紫外線照射によって細胞が死ぬ際、p53が活性化していることが確認されています。

そこで、がん細胞および正常細胞に合成RNAを投与し、p53の活性化状態を調べました。すると、がん細胞内のp53は活性化していましたが、正常細胞では活性化が起こりませんでした。

さらに、ドキソルビシンの投与、紫外線照射、X線照射による同じ実験を行ったところ、正常細胞でもがん細胞でもp53の活性化が見られ、細胞死が起きました。

合成RNA投与によるp53の活性化は、正常細胞では確認できない
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