HOME > 研究者 > 高岡晃教先生 >「生体防御シグナル経路を利用したがん選択的細胞死誘導法の確立」(第2回)

がん・非がんに関わらずp53が活性化して細胞死に至る経路と、合成RNAを投与したがん細胞のみでp53が活性化し細胞死する経路は、同じなのでしょうか。

いい質問ですね。私たちは最初、通常のp53経路とは異なる、がん細胞にしか存在しない経路があるのではないか、と考えました。さらに、p53が存在しないがん細胞に合成RNAを投与しても細胞死が起こらなかったことから、がん細胞選択的細胞死には、p53が不可欠であることも推測できました。

では、合成RNAをとらえた自然免疫核酸センサーがどのようにp53の活性化に関わっているのか。それを調べるため、関連する核酸センサーと結合するさまざまなタンパク質を調べたところ、ゲノムの修復に関連する興味深い分子が浮上しました。この分子は、通常は核の中に存在しています。

この着目している分子が存在しない細胞を作製して実験したところ、合成RNAの投与によるp53の活性化が起きず、細胞死も起きませんでした。このことから、核酸センサーとこの分子との結合が、細胞死を誘導するp53経路を活性化していると推測できます。実際に、合成RNA刺激により、核酸センサーとこの分子との会合が増強することも確認できました。

まず合成RNAが自然免疫核酸センサーに結合し、それによってこの分子との結合が促され、その下流でp53経路が活性化される、という流れでしょうか。

そうです。さらに興味深いことが分かってきました。詳細な機序はまだ不明ですが、がん細胞と正常細胞において、今回着目している分子の細胞内の局在が異なることを見出しました。このことが、おそらく「正常細胞では細胞死の経路が活性化されず、がん細胞に特異的に細胞死を誘導させる仕組み」を明らかにする鍵を握っているのではないかと考えています。合成RNA投与によるこの分子と自然免疫核酸センサーとの会合が、正常細胞では起こらないことも、その裏付けになります。

合成RNAの投与ががん細胞に特異的に細胞死を起こすメカニズムは、通常の自然免疫系のシグナル経路ではなく、何らかの原因で異所性に局在するこの分子が、その下流でp53を介した細胞死経路を誘導するということが示唆されます。以上が、これまでの研究で明らかになったことです。

本研究で明らかになった、自然免疫核酸センサーシグナル新規経路

がん細胞と正常細胞を見分けるポイントが、遺伝子の違いやタンパク質の違いのみではなく、特定の分子が存在する「場所」であるということも、これまでにない観点だと思います。

現在着目している分子が、なぜがん化することで正常細胞と異なった細胞内局在を示すのか。そのメカニズムについては不明であり、それががん進展のどのタイミングで起こるものなのか、今後研究を進めていく予定です。他にも同様の動きをする分子を発見できれば、その分子をターゲットとする新たなアプローチ──たとえば特定の細胞内エリアにのみ効果を発揮する薬剤の開発など、より幅広い研究が可能になると期待しています。

がん細胞のみを細胞死させる新しい治療法の実現に一歩でも近づくため、現在、この新経路を活性化させる化合物をスクリーニングしている
Copyright(C) SECOM Science and Technology Foundation