HOME > 研究者 > 高岡晃教先生 >「生体防御シグナル経路を利用したがん選択的細胞死誘導法の確立」(第2回)

先生は子どもの科学教育にも、熱心に取り組まれているそうですね。

はい、2015年から幼稚園への出張講義を始めました。T細胞やB細胞、抗体を「まもるんジャー」と「しれいかん」、さまざまな病原体を複数の「ばっちぃーマン」というキャラクターにして、免疫のメカニズムを子どもが大好きな戦隊もののショー『からだをまもるんジャー』で表現しています。ショーの後は、劇で登場させた微生物や免疫細胞の標本を、実際に顕微鏡を使って園児たちに見てもらいます。舞台シナリオ、デザイン、演出、衣装など、学生やスタッフとともにすべて手作りで行っています。

これまで札幌市内の私立幼稚園を中心におよそ10カ所、1000人近くの園児たちの前で上演してきました。毎回子どもたちに大好評で、私も学生たちも、演技に熱が入ります。

インフルちゃんとインフルくんが、お家(細胞)の中に入ってしまった(感染)。まもるんジャーB(B細胞)による抗体ボールは効果がない。まもるんジャーT(キラーT細胞)による攻撃(T細胞受容体を模した“ビリビリセーバー”という風船を持たせた園児も参加)で感染細胞が排除される

また、年に1回、小学生を対象に参加者を公募し、遺伝子病制御研究所が中心となって、多くの北海道大学附置研究所に協力いただき、「北大こども研究所」を開催しています。子どもたちは様々なジャンルの科学の講義を受けた後、顕微鏡で細胞を見る実験のほか、英語の論文を読む、海外の研究者と話すなど、よりリアルな「研究者体験」をしてもらっています。

研究・実験体験の様子。7〜8名のグループが各々の研究室へ配属されて、研究者の生活に触れる体験をした

中学生や高校生ではなく、幼稚園児や小学生に教えるのは、なぜですか。

現代の効率重視の詰め込み型学習では、研究に不可欠な好奇心やクリエイティビティが十分に育ちません。私は子どもたちに、科学の真の楽しさを伝えたいのです。そこで、頭が柔らかく、ある程度のイベント記憶が残ると考えられる4〜5才の園児をターゲットとしました。この頃の年代の子どもは、とにかく吸収力が高く、興味あることに全力で取り組むため、この時期に科学の面白さを実感できれば、後々の学習のみならず物事の考え方など、いろんな意味でプラスの影響を及ぼすはずです。

単に免疫の仕組みを理解させるためではなく、目に見えない世界があることを知り、想像力を育み、様々な価値観に触れて視野を広げていく、そのキッカケになれればと願って活動をしています。

最後に、セコム財団へのメッセージをお願いします。

ある研究を進めていると、他の研究アイデアに繋がるデータが突然出てくることがあります。しかし、そのデータをもとに新たな研究を始めようとしても、研究費を確保することは、通常、困難です。

本研究もそのように始まりましたが、コンセプトが出来たばかりの段階で実績がないにも関わらず採用していただけたことは奇跡的であり、たいへん感謝しています。

セコム財団の研究助成制度は、期間が長く、金額も大きいため、大きなプロジェクトを走らせることができます。準備期間にさまざまなアドバイスをいただき、スクリーニングされた上で本研究に移行できることも、他にはない大きなメリットなので、これからも多くの研究者に挑戦してもらいたいですね。

「研究とは、道端に転がっている石を見つけて拾い上げるようなもの。それがダイヤモンド原石なのかどうかを嗅ぎ分ける直感を大切にしたい」と語る高岡先生。まずは落ちていることに気づけるよう、常に感性を磨くことが大事

この研究から新しいがん治療法が1日でも早く誕生すること、そして、先生の教育を受けた未来の科学者たちが世界に羽ばたいていくことを、心から願っています。 長時間のインタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

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