HOME > 研究者 > 関谷毅先生 >「お母さんと胎児の常時見守りセンサーシートの開発 〜出産前から母子の安全安心に貢献する〜」(第1回)

胎児心電など妊婦さんはおなかの情報が得られれば得られるほど不安になり、その不安に一件ずつ対応していくことになれば、産婦人科医はますます忙しくなり、結局人手不足の解消にならないのではないでしょうか。

仰る通りです。そこで、将来的にはセコムホームセキュリティとの連携などもできればと考えています。例えば、センサで異変を計測したら、その信号をホームセキュリティシステムを使ってセコム専属看護師へ送信することで、医師の診療が必要か否かを客観的に判断することができます。そこではじめて専門医の出番となり、少ない専門医でも多くの妊婦さんを診ることができるので、人手不足にも対応することができます。

少子高齢化がますます進む昨今ではありますが「いつでも、どこでも、誰でも、手軽に、低コストで」妊婦さんと、胎児の健康状態を把握することができるようになれば、真の安全安心な社会に向けて大きく前進すると言えるでしょう。

心電の計測だけでなく、セコムホームセキュリティとの連携など、外部との通信もシートが行うのですか?

超低消費電力の無線モジュールが搭載されていますので、シートが直接外部との通信や、スマートフォンアプリとの連携を可能にします。アプリは、データを用いた健康状態を把握するためのものです。シート型にしたのは、一点だけ計ってもデータの客観性がなく、どの部分が異常なのか、わからないからです。多点で計測することで、データの相互補完を行うなど信頼性を大きく向上させることができるようになります。

使用充電池は、たった1時間程度でフル充電が可能で、最大10時間連続使用できます。日中の生活で装着して、夜の入浴中などに充電していただければ、再度、就寝中の10時間測定できます。

シートを貼り付ければ体温を感知してスイッチが入るなど、使いやすさも追求しています。将来的には、モジュールが5000円〜7000円、電極が1枚200円程度での普及を想定しています。

近年の医療エレクトロニクスは、誰でも手軽に使えることを最優先に考える必要がある

研究を進められたうえで、どんな点が苦労しましたか?

ひとつはセキュリティの問題です。24時間個人の生体データを抽出するわけですから、個人情報の管理を徹底しなくてはなりません。

そして、一番苦労している部分は、付け心地と動作保証の両立です。現在の構成では、およそ5年から10年の動作保証が可能と考えています。肌に対しては、湿布やバンドエイドのような、柔らかい材質を使用することが、ユーザビリティ向上につながりますが、この薄い膜を数年単位で動作保証することも、また不可能です。

医療においては、生体適合性の観点から、できるだけ素材をフレキシブルにしていくことが求められます。エレクトロニクスとして安全な動作を保証し、かつ、長時間人肌に触れるものとして、生体適合性を上げること。この中間点を探っていかねばなりませんでした。現段階では、信号分離アルゴリズムや通信モジュールの開発は完成しているため、シートのユーザビリティ向上に最大限の力を注いでいます。

様々な柔軟性を持つフレキシブル計測システム。右から左に行くほど柔らかくなるが、動作寿命は短くなっていく。

ありがとうございました。
次回のインタビューでは、“母体心電”と“胎児心電”の信号分離アルゴリズムの詳細や、
今後の目標と方向性についてお話しいただきたいと思います。

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