HOME > 研究者 > 関谷毅先生 >「お母さんと胎児の常時見守りセンサーシートの開発 〜出産前から母子の安全安心に貢献する〜」(第1回)

心電を計測するだけで、胎児の様子がわかるのですか。

胎児が脅かされるリスクのひとつとして、胎動による“臍帯巻絡”(へその緒が首に巻き付く状態)があります。首が絞まり、呼吸が弱まると心拍数が下がります。大人の心拍数は90拍毎分くらいですが、赤ちゃんの拍数は通常120拍毎分であり、首が絞まると異変が生じ、拍数が低くなれば異常として検知することが可能になります。

妊婦さんと胎児の心電の見分けはつくのですか。

当然ながら、胎児心電は母体心電に比べ、かなり小さな信号です。参考として、お母さんの筋電(筋肉が動くときに発生する電気信号)は10ミリボルトあるのに対し、胎児心電は100ミクロンから200ミクロンほどしかなく、1000倍近くのひらきがあります。

そこで私達の研究グループは、母体心電と胎児心電を分離するアルゴリズムを開発しました。これを用いて、大阪大学医学部附属病院と連携し、2年かけて妊婦さんを25例ずつ、合計50例を計測した結果、準備研究の段階で88%、現段階ではほぼ100%の信号分離に成功しています。そして今年度中には、200例を計測予定です。センサにはAIが搭載されているため、より多くの統計をとることによって、健康状態の把握に加え、出産時期の予測や、他胎児と比較した健康状態の把握が可能になります。

準備段階では88%程度だった分離成功率を
「新型ゲル電極の開発」「信号分離アルゴリズムの高度化」の実現により、99%以上に高めることに成功した

実際にセンサを使用された妊婦さんたちの反応は、どのようなものでしたか。

人肌にやさしい柔軟な密着性ゲル電極を使用しておりますので、付け心地に関しては高評価でした。しかし、また別のニーズがあることが判明しました。研究当初の目的を胎児の様子に絞っていたため、その把握ができていれば“御の字”と考えていたのですが、「妊婦さんたちはたまにお腹がはるときがある。ただ単にはっているだけなのか、陣痛の前触れなのか」「どのタイミングで病院にいけばいいのか」など、不安を感じる方が多く、その原因もわかるようにしてほしいとの要望を受けました。

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