HOME > 研究者 > 小川佳宏先生 > 加齢による副腎由来ホルモンの不均衡に着目した骨粗鬆症の病態解明と早期診断法の開発(第2回)

副腎は体内・体外のストレスに対して多種類のホルモンを分泌し、身体の恒常性維持に重要な役割を果たしています。しかし、加齢とともに変化すること、各ホルモンの代謝作用については一定の知見があるものの、研究の困難さから多くの不明点が残されていました。

小川佳宏先生は、副腎組織の加齢性変化と副腎由来ホルモンの不均衡が起こる仕組みの解明に取り組み、副腎と骨の関係から、早期診断が困難な「骨質劣化型骨粗鬆症」にアプローチしています。第2回のインタビューでは、副腎に生じる機能性腫瘍のさらなる解析結果と骨粗鬆症との関係性、早期発見方法の開発等についてお伺いします。

まずは前回のおさらいから、お願いいたします。

骨の強度を維持するためには「骨量(骨密度)」と「骨質」の両方が十分備わっていることが重要です。しかし、脆弱性骨折の約半数を占める「骨質劣化型骨粗鬆症」を早期発見するための検査方法は、未だ開発されていません。

そこで私たちは、副腎に着目しました。3層で構成されている副腎皮質からはアルドステロン、コルチゾール、副腎アンドロゲンが分泌されており、いずれも生命維持に不可欠なホルモンです。ところが加齢によって層構造が破綻するとともに、分泌される副腎皮質ホルモンのバランスも不均衡になります。これが骨質劣化型骨粗鬆症に関わっているのではないかと考え、本研究を開始しました。

まずは副腎皮質ホルモンの合成経路を踏まえて、72種類のステロイド代謝産物を測定する網羅的ステロイドミクス解析法の開発に成功しました。さらに、副腎皮質3層構造が破綻するメカニズムを解明しました。

次に、副腎皮質ホルモンの不均衡と骨粗鬆症の関連を調べるため、アルドステロン産生腫瘍(APA)の遺伝子発現パターンを解析しました。すると、腫瘍を構成する細胞には9つのタイプがあり、コルチゾールを産生していること。APA患者の血中コルチゾール濃度の高さと脆弱性骨折(椎体骨折)が、強い相関関係にあることが分かりました。

アルドステロン産生腫瘍なのに、なぜコルチゾールを作っているのでしょうか。

APAの腫瘍組織の中に、コルチゾールを作る細胞が混ざっているためです。私たちは一部のストレス応答性細胞が、脂質関連マクロファージ(LAM)との相互作用によってコルチゾール産生細胞に分化していることを突き止めました。

さらにこのコルチゾール産生細胞は、間質様細胞へと分化します。すると腫瘍が大きくなり、ますます血中コルチゾールが増加して、椎体骨折を発症しやすくなると考えられます。

このような細胞同士の相互作用を、近年は「微小環境における細胞間相互作用」と呼んでいます。

APAの腫瘍内不均一性の細胞機構と臨床的意義。内分泌細胞のもとになるストレス応答細胞が、多様な細胞に変わっていく実態を明らかにした

そういえば、マウスを使った実験は行っていないのでしょうか。

実は、人間と同じように副腎皮質が3層ある動物は、イタチやハリネズミといった実験に使わない動物ばかりです。マウスの副腎には網状層が存在しませんし、げっ歯類はコルチゾールを合成しません。そのため、副腎の研究では動物実験が困難なのです。

加えて、3層構造の破綻には加齢だけでなく、ストレスも関わっている可能性があります。しかし、日常的に受けているストレスには個人差があります。おそらく、高齢になっても3層構造が保たれている人や、若くても層の境界が不明瞭になっている人は存在するでしょう。しかし、それを確認することはできません。

それでも、さまざまなデータから予測することは可能です。そして、球状層と束状層の変化についてはマウスで実験し、得られた知見を人の検体や臨床研究に戻って検証する。これを繰り返すことで、全体像の把握に迫ることができると考えています。

マウスを用いて得られた知見と、人の臨床検体および臨床情報を統合して得られた知見、その他あらゆる方向から検証を行っていく
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