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加齢による副腎由来ホルモンの不均衡に着目した骨粗鬆症の病態解明と早期診断法の開発(第2回)

九州大学

Yoshihiro Ogawa

それでは、副腎に発生するもう一つの機能性腫瘍である「コルチゾール産生腫瘍」について、わかったことを教えてください。

「クッシング症候群」という病名を聞いたことはあるでしょうか。体内のコルチゾールが過剰になり、肥満や糖尿病、高血圧、骨粗鬆症などの症状を引き起こす病気です。その原因の一つが、コルチゾール産生腫瘍(CPA)です。アルドステロン産生腫瘍(APA)と同じように解析を行ったところ、CPAを構成する細胞も多様かつ不均一であることが分かりました。

私たちは助成期間中に、世界で初めてCPAの前駆病変である「ステロイド産生副腎皮質結節(SPN)」を発見しました。そしてSPNが束状層様構造と網状層様構造を有している2層構造で、束状層様構造には細胞増殖促進作用があり、コルチゾールを産生すること、網状層様構造にはアンドロゲン依存的な細胞増殖抑制作用があり、アンドロゲンを産生することを確認しました。

CPAの細胞の多様性・不均一性は、この相反する作用を持つ2層構造の相互作用によって生じている可能性があります。

CPAの前駆病変SPNは2層構造を呈しており、束状層様構造がCPAに進展すると推定された

CPAが原因でコルチゾールが過剰になった場合も、やはり骨粗鬆症を引き起こすのですね。

はい。さらにCPAが生じると、副腎皮質の正常細胞が萎縮してしまいます。血中コルチゾールの増加によってネガティブフィードバックがかかり、下垂体からACHTが分泌されなくなって、束状層と網状層が維持できなくなってしまうからです。

網状層が萎縮すると、副腎アンドロゲンが不足します。正常な束状層でのコルチゾールの分泌量は低下しますが、腫瘍から自律的に分泌されているため、血中コルチゾールはむしろ過剰状態になります。

副腎アンドロゲンが不足し、コルチゾールが過剰になる。バランスが崩れるのですね。

コルチゾールとアンドロゲン以外にも、CPAではさまざまなホルモンが産生されます。そのひとつがミネラルコルチコイドの代謝産物であり、骨量低下作用を持つ「11 - デオキシコルチコステロン(11-DOC)」です。

CPAで作られる11-DOCの増加が骨量を低下させ、コルチゾールの過剰と副腎アンドロゲンの低下が骨質の劣化を招く。副腎皮質ホルモンの不均衡は、骨量の低下と骨質の劣化、双方の仕組みが発生させることで骨粗鬆症を引き起こしているのだとわかりました。

副腎皮質ホルモンの不均衡と疾患発症

副腎皮質の3層構造が破綻したとき、またはAPAやCPAが生じたときに、検査等によって骨粗鬆症を早期発見することは難しいのでしょうか。

それは、臨床的に容易ではありません。

そこで「副腎由来ホルモンに基づく骨折予測モデルの構築」を試みています。たとえば幅広い年齢を対象にアトランダムで採血および骨の検査を行い、血液中の副腎由来ホルモンのパターンと骨の状態のデータを大量に得ることができれば、血中ホルモンの数値から副腎の状態を推測し、骨粗鬆症のリスクを予測できる可能性があります。

解析には研究費がかかるため、最初は限られた症例に絞っていたのですが、一般研究助成に採択していただいたおかげで解析数を大幅に増やすことができ、研究が大きく前進しました。この成果をもとに、今後は他のホルモン産生腫瘍のメカニズムの解明にも取り組み、内分泌腫瘍の全体像を明らかにしたいと考えています。

本研究の成果を次の世代に繋げるためにも、多くの若い研究者と一緒に研究を進めて、内分泌学全体の発展を目指していく
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