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加齢による副腎由来ホルモンの不均衡に着目した骨粗鬆症の病態解明と早期診断法の開発(第1回)

九州大学

Yoshihiro Ogawa

高齢になると副腎皮質の層構造が乱れる。そのメカニズムについて分子レベルで解明されたのですね。

先に述べたように、研究のために副腎の組織生検を行うことはできませんが、私たちは、九州大学病院から治療のために切除された検体を入手することが可能です。それらを使って、加齢による副腎由来ホルモンの不均衡と骨粗鬆症の関連を調べるため、「アルドステロン産生腫瘍」と「コルチゾール産生腫瘍」に着目しました。どちらも良性腫瘍であり、転移はしませんが、機能性腫瘍としてホルモンを産生します。

特定のホルモンを産生する腫瘍ができてしまったら、分泌量が過剰になりそうです。

その通りです。アルドステロンを自律的に分泌し続けてしまう「原発性アルドステロン症(PA)」という疾患があります。この病気は、片方の副腎にだけ機能性腫瘍ができる「片側性(APA)」と、小さな腫瘍が両方の副腎に広範囲に生じる「両側性」があります。

そして、APA患者さんは合併症として、心血管疾患、腎障害、耐糖能異常、骨粗鬆症を発症しやすいことが臨床的に分かっています。さらに、APA患者さんの中には、椎体骨折を起こす人が一定数います。椎体骨折とは、立ったり座ったりするたびに一定の荷重がかかり、椎体が折れてしまう脆弱性骨折の一種です。

そこで、まずはAPAの腫瘍の遺伝子の発現パターンを解析しました。すると、9つの細胞タイプが存在していました。それぞれの位置をコンピュータで対応させると、腫瘍には複数の細胞が混ざっており、不均一であることがわかりました。

APAを構成する細胞の全体像。付随副腎は腫瘍に隣接している副腎細胞のこと

腫瘍はがん細胞のみで構成されていると思っていたので、意外です。

次に、椎体骨折をしたAPA患者さんと、骨折していないAPA患者さんの血中ステロイド量を測定し、骨折の有無に最も大きく関与しているものを調べました。その結果、相関が最も高いのはコルチゾールでした。コルチゾールを最上位としてステロイド産生パターンで「椎体骨折する/しない」という2群に分けることができたのです。

さらに解析を進めると、椎体骨折をした患者さんは腫瘍から分泌されたコルチゾールの血中濃度が高いことがわかりました。

APAのコルチゾール産生と椎体骨折。シングルセル解析により、どの細胞がどのようなホルモンを作っているのかが、血中濃度の測定からわかるようになってきた

アルドステロン産生腫瘍がコルチゾールを作っているなんて、不思議です。

その理由は、次回ご説明します。これまで臨床的に「血中コルチゾールが上昇しているAPA患者さんは、骨粗鬆症や心血管障害、腎障害や糖尿病になりやすい」ことが知られていました。それをこの研究で、細胞レベルで検証することができたわけです。

共同研究者の馬越真希助教(左端)と、研究をサポートしてくれた馬越洋宜助教と岩橋徳英特任助教(右2名)

身体の恒常性維持に不可欠な副腎皮質ホルモンが、加齢に伴う副腎の組織変化によって不均衡な状態になり、さらに機能性腫瘍の発生が骨粗鬆症のリスクを高めている。多くの実験と解析から得られた発見をわかりやすく教えてくださり、ありがとうございました。
第2回のインタビューでは、機能性腫瘍をつくる細胞が不均一である原因や、ホルモンを産生する仕組み、今後の展望などについてお聞きします。

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