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加齢による副腎由来ホルモンの不均衡に着目した骨粗鬆症の病態解明と早期診断法の開発(第1回)

九州大学

Yoshihiro Ogawa

副腎皮質から分泌されるホルモンが不均衡な状態になると、具体的にどのような影響が出るのでしょうか。

ホルモンには日内変動があります。たとえば、ストレスに反応するコルチゾールは、就寝中は低い状態を維持し、早朝・起床前に増加して、その後は徐々に下がっていきます。一日の始まりは「これから学校/仕事に行く」というストレスがあるため「ON」になり、帰宅時間が近づくと低下して、就寝によって「OFF」になるのです。

このON/OFFに対する反応は、年齢を重ねるにつれて鈍くなっていきます。起床時にホルモン量が上がっても、昼から夜にかけて十分に低下しないこともあり、相対的に過剰な状態になってしまうのです。

また、加齢とともに網状層が萎縮することがわかっています。すると、分泌される副腎アンドロゲンの量も低下します。アンドロゲンは筋肉や骨を作り、維持するために必要なホルモンのため、抗老化ホルモンとも呼ばれています。この抗老化ホルモンが低下することで、加齢性疾患にかかりやすくなると考えられています。

副腎組織の加齢性変化と、副腎皮質ホルモンの不均衡

3層構造が乱れたり、ホルモンバランスの不均衡が起こるのは、高齢者になってから急激に進むものですか。それとも、若いうちから徐々に進行していくのでしょうか。

私たちは40代くらいでも起きている可能性があると考えています。「可能性がある」としか言えないのは、副腎は生命維持に重要な臓器であり、研究目的では生検できないからです。そのため加齢によって副腎がどのように変化するのかは、正確にはわかりません。

ただし、副腎由来ホルモンの不均衡が病気の前触れになるのであれば、それらを測定することで加齢性疾患、つまり「骨質の劣化による骨粗鬆症」の早期発見や予防に繋がるかもしれないと考えました。

本研究では骨質劣化型骨粗鬆症がどのようにして発症するのかを解明するため、二つの目的を掲げました。ひとつは「副腎組織の加齢性変化と副腎由来ホルモンの不均衡の統合的理解」、もうひとつは「副腎由来ホルモンの不均衡による骨粗鬆症の発症機序の解明」です。

具体的には、どのようにご研究を進められたのですか。

副腎由来ホルモンのアルドステロン、コルチゾール、副腎アンドロゲンは、いずれもコレステロールから作られます。私たちはその分化経路を発見し、その経路の途中で産生される中間代謝産物(ステロイド代謝物)の解析を試みました。本研究の共同研究者である馬場健史教授(九州大学 生体防御医学研究所トランスオミクス医学研究センターメタボロミクス分野)の力をお借りして、それらを測定する網羅的ステロイドミクス解析法を開発したのです。

副腎皮質ステロイド代謝物の網羅的な測定法により、73例のコルチゾール産生副腎腫瘍患者と、その対照群として85例のホルモン非産生副腎腫瘍患者の計158例の血液検体において、21種類の副腎皮質ステロイド代謝物を測定した

特定のホルモンのみを計測するのではなく、網羅的に調べるのですね。

ホルモンの解析と並行して、空間トランスクリプトーム解析で副腎皮質3層の遺伝子の発現パターンを調べました。これはどの場所に、どの遺伝子を発現した細胞があるのかをマッピングする技術です。

若年者の副腎皮質は各層の境界が明確で、層ごとに特徴的な遺伝子が発現していることがわかります。高齢者の副腎は、3層構造が破綻していました。

副腎皮質3層構造の空間トランスクリプトーム解析。一つのスポットに数十個の細胞が入っている

副腎皮質3層構造が破綻する分子機構についても、調べました。その結果、副腎皮質は外側の球状層から内側の束状層に向かって分化していくことがわかりました。高齢になるとその分化シグナルの経路が乱れて細胞が老化・死亡したり、炎症を起こしたり、マクロファージが浸潤してきたりします。つまり、正常の副腎皮質のリモデリング(機能維持のために再構築するプロセス)の破綻が、層構造が乱れる原因になっていると推測できます。

副腎老化の分子機構
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