骨粗鬆症は骨量が減って骨折しやすくなる病気ですが、骨の形成が抑制されているのか、骨の吸収が増加しているのかで、とるべきアプローチは異なります。また、発症要因によって「加齢性骨粗鬆症」、「閉経後骨粗鬆症」、「不動性骨粗鬆症」に分かれます。加えて、予防や治療には適度な運動が重要であるにもかかわらず、その定義は曖昧なままでした。
そこで本研究では、平成30年度に採択していただいた挑戦的研究助成の研究成果を発展させ、一人ひとりの身体状況に応じた骨粗鬆症の発症予測と、予防に効果的な運動プログラムを提案するための研究開発、および骨形成促進薬の開発に寄与する分子メカニズムの発見を目指しています。
具体的には、各骨粗鬆症の疾患モデルマウスを用意し、血中骨代謝マーカー(骨形成や骨吸収の際に生じる代謝物)の変動から骨量を推定、将来の骨粗鬆症発症予測が可能なシミュレーションの開発を進めるとともに、マウスの運動後の骨代謝マーカーを測定して骨量への影響を解析しています。

不動化後のマウスの骨量低下は4日後から始まり、その後も継続的に減少していく。血中骨代謝関連マーカーを測定すると、骨形成関連マーカー(OCN、P1NP)が劇的に減少していることがわかった
将来の骨量予測に有効な骨代謝マーカーと、運動後に変動する骨代謝マーカーは異なります。現在は各骨粗鬆症を対象とし、さまざまな影響を幅広く確認するために7種類すべての濃度を測定していますが、社会実装を考えると7種類の測定はコストがかかり、現実的ではありません。そのため、目的別に1〜2種類へと絞り込んでいく、もしくは骨量自体を反映するようなバイオマーカーを特定していく予定です。

「現在の骨量」とは、骨の形成(プラス)と吸収(マイナス)のバランスの結果。骨量を見るだけではどちらに傾いているのかわからないため、研究段階では7種類の骨代謝マーカーを確認する必要がある
実験用のマウスは個体差が出ないように作られているため、ヒトよりもノイズのない、綺麗なデータが獲得できます。そのため、まずはマウスで骨量の増加や維持に関わる骨代謝マーカーを確定し、その数値が有意に変動する運動を見つけて、ヒトへの応用に繋げる予定です。
また、個体差の影響を軽減する方法として「層別化」という手法があります。たとえば加齢性骨粗鬆症の患者さんを「運動習慣がある」と「運動習慣がない」という2つのグループに分けたり、不動性骨粗鬆症の患者さんを年代別に分けたりするなど、同じ疾患でもグループ化が可能です。このグループごとにデータを確認することで、個体差を少なくできるのです。