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健康長寿社会の実現に向けた新たな自己免疫制御療法の確立(第1回)

慶應義塾大学

Koji Hase

自己免疫疾患の治療において、Tfr細胞はかなり重要な役割があるのですね。

はい。しかし、Tfr細胞の研究はあまり進んでいませんでした。前駆細胞であるナイーブT細胞からTfr細胞へ、in vitroで分化誘導する培養条件が確立されていなかったためです。

しかし、私たちは研究中に、世界で初めてTfr細胞のin vitroにおける分化誘導に成功しました。in vitroで誘導した細胞を「iTfr細胞」と呼んでいます。

そして、この誘導系を基盤に、iTfr細胞のハイスループットスクリーニング系の構築を目指しました。「ハイスループットスクリーニング」は、膨大な数の化合物を網羅的にスクリーニングし、目的の物質を迅速かつ高効率で選び出す技術です。

当初は検出感度が不十分でしたが、東京理科大学の原田陽介先生からBcl-6-tdTomatoレポーターマウスをご提供いただいたおかげで、研究が飛躍的に進みました。このマウスの細胞はTfr細胞に分化すると、tdTomatoという蛍光蛋白質を発現します。画像解析機能を活用してtdTomato陽性細胞数を測定することで、簡便にiTfr細胞のスクリーニングが可能になったのです。

in vitro で誘導したiTfr細胞が、生体内のTfr細胞と同等の自己免疫制御機能を有することも、研究によって立証済

Tfr細胞は酪酸によって誘導されるという話でしたが、それ以外の化合物をハイスループットスクリーニング技術を用いて探している、ということですか。

酪酸は一種の毒であり、Tfr細胞誘導活性の他にさまざまな作用があるため、治療に用いることはできません。そのため、Tfr細胞増加に対して特異的に効果を発揮し、酪酸を上回る誘導活性を有する低分子化合物を、新たに発見する必要がありました。

そこで、①腸内代謝物ライブラリー(約80種類)、②放線菌培養抽出液(約1000種類)、③標準阻害剤SCADsキット(約360種類)、④既存薬ライブラリー(約1500種類)から、探すことにしました。この4つを対象にした理由は、天然物と合成化合物の両方を調べるためと、化合物の情報がある程度解明されているものから、まだ解明されていない新規のものまで、幅広くターゲットにするためです。

SCADsキットや既存薬ライブラリーに含まれる化合物は、ある程度の情報が明らかになっている。放射線菌抽出物のライブラリーは雑多な化合物であり、新しいTfr細胞誘導活性を持つ化合物が発見できる可能性がある

酪酸以上に有効な化合物は、見つかりましたか。

私が独自に構築した腸内代謝物ライブラリーからは、いくつかiTfr細胞誘導活性を有する代謝物を発見しましたが、残念ながら酪酸以上のものはありませんでした。その他のライブラリーからは、興味深い化合物が複数見つかりました。

まず、放線菌培養抽出液のライブラリー。放線菌とは、細胞がカビのような放射状の細長い菌糸を形成して増殖するという特徴を持ち、生物活性を有する二次代謝物(生命現象には直接関与しない物質を産生する二次代謝によって生じた化合物)を豊富に生み出すことで知られています。これまで1000株近くの培養液のスクリーニングを実施し、その中でひじょうに強いiTfr誘導活性を示すものが見つかりました。まだ解析の途中ですが、このライブラリーには他にも面白い化合物があると期待しています。

SCADsキットのスクリーニングでも、16種類のiTfr細胞誘導活性を持つ化合物を同定しました。こちらはさらに解析を進めて、分化誘導メカニズムの解明と、自己免疫疾患に対する抑制効果の検証も行っています。

自己免疫疾患と腸内細菌、腸管免疫の関係について、わかりやすく教えていただき、ありがとうございました。次回は、先生が発見されたiTfr細胞誘導活性を持つ物質が、関節リウマチに対してどのような効果が期待できるのか、詳しくお聞きしていきます。

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