私が腸に興味を持ったきっかけは、学生時代に読んだ『腸は考える』(藤田恒夫著)という本です。腸は体内に入ってきた栄養素の情報を感知し、ホルモン等の情報伝達物質を分泌して腸管ぜん動を促すなど、自ら考えて活動できる臓器だと知り、感動しました。その後、薬学部を卒業した頃に健康食品がブームとなり、就職先の山之内(現アステラス)製薬会社でも、健康科学研究所が設立されました。私はそこで、腸内発酵の研究に携わることになりました。
腸内細菌は、健康な人であれば40兆個から100兆個くらい存在しており、食物繊維を分解してエネルギーを生成しています。このときから「腸内細菌は、実は生体機能も調整しているのではないか?」と考えていました。そしてあるセミナーで、腸管免疫について学ぶ機会を得ました。腸は体内の有害なものと無害なものを区別し、免疫のアクセルとブレーキを絶妙なバランスでコントロールすることで、有害なものだけを排除しているというのです。当時はそのメカニズムが解明されていなかったため、腸管免疫は免疫学の中の暗黒大陸と言われていました。
私はこの腸管免疫の面白さに強く惹かれて渡米し、カリフォルニア大学サンディエゴ校の医学部に留学しました。それ以来ずっと、腸管免疫の研究をしています。