HOME > 研究者 > 泉田啓先生 > 羽音をたてずに自在に飛翔する超小型飛行機の実現のための蝶の羽ばたき飛翔の解明(第2回)

蝶は人工の飛行機よりもはるかに優れたマヌーバビリティを有し、また羽音を殆ど出さずに羽ばたき飛翔します。そのため、蝶の羽ばたき飛翔のメカニズムの解明は、高性能の超小型飛行機の開発につながる可能性があります。

そこで泉田先生は、制御-身体-環境の各サブ・システム間の相互作用に着目。蝶が自在に羽ばたき飛翔できる仕組みの解明に取り組まれました。また、蝶がサブ・システム間の相互作用を動的に変化させる「動的システム化」により高いマヌーバリティを達成しているとの想定から、「動的システム化の科学」という新しい研究領域の構築を目指されています。

第2回では、渦についての評価実験や、ご研究の展望や可能性などについてお伺いします。

まずは、前回のおさらいからお願いします。

蝶は、他の昆虫や鳥などと異なり、ゆっくりと羽ばたいて自在に飛翔します。私はそのメカニズムを探る中で、蝶が羽ばたくことで生み出した渦(環境)と翅(身体)との相互作用を利用して飛翔していること、さらにそこから、蝶の羽ばたき飛翔は制御-身体-環境の各システム間の相互作用によって成立していることを明らかにしました。また、蝶の飛翔システムは、複数のサブ・システムから構成されており、蝶はその間で生じている相互作用を動的に変化させることで、高いマヌーバビリティを実現していることもわかってきました。

なお、ここまでの研究で明らかになったように、渦は蝶の飛翔に大きな役割を果たしています。そこで、本格研究では、羽ばたく蝶の周りで発生する渦を評価しました。

渦はひじょうに小さくて、詳細に調べるのは困難ではではないでしょうか。

渦の直径は最大でも10 mm程度なので、数値シミュレーションで存在が示された直径2~3 mmより微細な渦を煙などで可視化して確認することは困難です。しかし、渦が生じる音を計測することで間接的に、その存在を確認できると思いつきました。

そこで、蝶の翅の後方に生じていると推定される、微細な渦が生じる音を数値計算で求めてみました。その結果、この微細な渦が僅かな音を出し、渦が作る音圧の3つのピークを計測できる可能性があると予測されました。

微細な渦が発生している小さな音を、数値計算から予測することができたということでしょうか。

はい。数値シミュレーションで予測した微細な渦は小さすぎるため、可視化して観ることはできませんが、その存在は、音を計測することで裏付けることができる可能性があるわけです。

そこで、予測結果を確かめるために物理実験に取り組み、高感度マイクロフォンを用いた音響計測装置で、微細な渦から発生している音を計測しました。その結果、数値計算で予測した3つの音圧ピークとともに、数値計算では予測できなかった音圧のピークをさらに1つとらえることができました。

このことは、流れ場を推定する意味で微細な渦のスケールまで数値シミュレーション結果が信頼できること、また、スケールが小さすぎて可視化実験で観ることができない微細な渦の存在を確認するために、音圧計測という手法が使えることを示しています。

翅後方で発生する渦の音圧の数値計算結果(上)と物理実験による計測結果(下)。右グラフの最右の矢印は、計算では明確に判読できない音圧のピーク

最終的には、こうした研究で得られた知見をもとにして、蝶が羽音を消音化するメカニズムの解明にアプローチしたいと考えています。

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