私はいわゆる昆虫少年ではなかったのですが、幼少期から飛行機や自由に空を飛ぶことに対して大きな憧れを持っていました。そのため、大学では航空宇宙工学を専攻し、さらに空を飛び越えて宇宙まで行ってしまいました。太陽光発電衛星などの柔軟宇宙構造物(宇宙で使用される柔軟で弾性変形し、低い周波数で振動する構造物)や、宇宙飛行士に代わって組立てなどの作業にあたる自律的宇宙ロボットのモデリング・制御・知能化などについて研究していたのです。
宇宙構造物においては、軽量でありながら、打上げの際の収納効率が高く、宇宙空間で確実に展開することが重要です。その設計開発には、トンボの翅など昆虫の身体構造がとても参考になります。また、宇宙ロボットには作業環境に適応しながら作業を達成する自律性や運動の知能が必要ですが、それを人間の10万分の1未満のニューロン数の微小脳しか持たない昆虫が易々と解決している姿を観て、昆虫に深い関心を持つようになりました。
蝶はひじょうに高いマヌーバビリティ(自在に飛翔状態を変えられる機動性)を備えています。ヘリコプターなどの人工の飛行機よりも、はるかに巧妙に動きを制御することが可能です。
また、多くの昆虫や鳥は、飛ぶときに羽音を発しますが、ある種の蝶は音を出さずに羽ばたき飛翔します。
そのため、蝶が飛ぶメカニズムを解明できれば、高いマヌーバビリティを備え、しかも無音で飛行できる超小型飛行機が実現できるのではないかと考えて、本研究に取り組みました。
蝶にはひじょうに高い機動性が備わっており、体重が大きく変化したり、羽が一部破損したりしても飛行することができる
下図は昆虫やハチドリ、その他の鳥の羽ばたき周波数と翼長の相関関係を示した分布図です。ここで示されているように、羽ばたき飛翔する動物の翼長と羽ばたき周波数の相関関係は、2本のラインで示した辺りに収まります。
しかし、私が研究対象にしているアサギマダラなどの一部の蝶や蛾は、そこから大きく外れています。同程度の翅長を持つ昆虫に比べても、桁違いに低い羽ばたき周波数で飛翔しています。
昆虫・ハチドリ・鳥などの羽ばたき周波数と翼長の相関