一般研究助成に応募した理由について、お伺いしてもいいですか。
課題解決につながるアイデアがあり、「このチームであれば必ず成果を出せる」という確信もありました。しかし、論文などの実績はまだなく、誰も取り組んでいない挑戦的な内容でした。さらに、経年劣化に関する研究は、このプロジェクトを開始する以前にはまったく経験がありませんでした。
国内の研究助成制度の多くは、一定の論文実績があり、研究テーマがある程度確立されていなければ採択されにくいという印象があります。そのような中で、2017年に挑戦的研究助成に採択された際には、それまで自分が取り組んできた分野とは異なる新しいテーマ、いわば萌芽的な内容であったにもかかわらず、非常に手厚く、幅広い支援をいただきました。その経験を通じて、研究が大きく成長し加速していくという得難い機会を得ることができました。
「この研究の背中を押してくれる存在があるとすれば、それはセコム科学技術振興財団である」と感じ、今回の応募に至りました。
面接や継続審査の感想、助成金の使い道などについても教えてください。
面接はオンラインで行われましたが、多くのご質問をいただき、私たちの研究目的を非常に深く理解していただけたという実感がありました。継続審査の際にも、数多くの貴重なアドバイスを頂戴しました。とくに坂井修一先生からいただいたフォールスポジティブ(偽陽性)の判定に関するご指摘は、その後の研究方針を検討するうえで重要な示唆となりました。成果をご報告できたことは、ひとつの達成感につながりました。
助成金は、主に半導体チップや実験設備の購入に活用させていただきました。劣化させたチップは元の状態には戻らず、初期段階では破損させてしまうことも少なくありませんでした。さまざまな劣化状態を検証するためには多くの半導体チップが必要であったため、大きな支えとなりました。

電磁気学やセキュリティ分野では、精密な温度制御を伴う実験はほぼ行われない。そのため、温度制御が可能な専用実験装置(画面中央)は通常の研究設備には含まれていなかった。本研究では経年劣化の評価に温度制御が不可欠であったため、その必要性をご理解いただき導入することができた
一般研究助成を受けて、一番良かったことは何でしょうか。
これまで取り組んだことのない未知の領域の研究に、十分な時間をかけて取り組むことができた点です。準備研究を含めて助成期間が4年間あったため「原理を解明するための研究」に腰を据えて向き合うことができました。論文として成果を発表するには一定の結果が求められますが、その前提となる原理を一から明らかにする必要がありました。その意味で、一般研究助成でなければ実現できなかった研究であったと感じています。
また、助成金額が充実していたことも大きな支えとなりました。奈良・神戸・東北という離れた大学の研究グループが定期的に集まり、密に連携を取りながら研究を進めることができました。さらに、本研究を通じて国外の研究者や研究機関とのつながりも深まり、研究の裾野が広がりました。
最後に、これから応募する研究者へのメッセージをお願いします。
失敗を恐れずに挑戦的なテーマに取り組み、新しい研究分野を切り拓くことができる。それがセコム科学技術振興財団の研究助成の大きな特徴であると感じています。
早急に解決すべき社会的課題があり、その解決につながるアイデアはあるものの、まだ本格的な研究としては立ち上げておらず、十分な論文実績もない。そのような段階であっても、アイデアと社会的要請がしっかりと結びついていれば、真摯に評価していただける助成制度だと思います。ぜひ挑戦してみてください。私自身も、新たなアイデアが生まれた際には、あらためて応募したいと考えています。

経年劣化に関する研究は時間を要したが、プロジェクトに参加した学生たちは高いモチベーションを維持しながら取り組んだ。若手研究者の育成という観点からも、大きな意義があった
世界情勢の不安定さが増す中、現代社会を支える情報システムの安全性を守るために3大学の研究グループが専門性を発揮し、共同で新技術を開発しておられることは、とても心強く感じました。お忙しいなか長時間のインタビューにお答えいただき、ありがとうございました。