HOME > 研究者 > 高岡晃教先生 >「生体防御シグナル経路を利用したがん選択的細胞死誘導法の確立」(第1回)

それでは今回の研究内容について、詳しく教えていただけますか。

私たちは、これまで自然免疫系のスイッチをONにする様々な核酸センサー分子に着目し、そのシグナル伝達経路の制御機構について研究してきました。

現在知られている核酸センサーは、細胞膜や細胞質などに存在しています。微生物由来の核酸であるDNAやRNAと結合すると活性化して形を変え、下流の細胞内の他の分子へシグナルを伝えて、Ⅰ型インターフェロンをはじめとする様々なサイトカインの産生を誘導します。特にⅠ型インターフェロンにはウイルスの増殖を抑制する働きがあり、B型肝炎・C型肝炎の治療法「インターフェロン療法」で応用されてきました。

私たちの体をつくる細胞には、微生物由来の核酸を感知して、微生物を排除するしくみがある

ウイルスの増殖を抑えるのであれば、がん細胞の増殖にも同じ抑制効果があるのでしょうか。

これまでの報告では、このような自然免疫系の核酸センサーを介するシグナルが細胞内に入ると、細胞死を誘導することが知られていました。それを確認するため、人工的な核酸RNAを投与することで、自然免疫核酸センサーを活性化させるとどのような影響があるのか、実験を行いました。具体的には、肺がん、子宮頸がん、肝臓がん、乳がんのがん細胞に直接投与し、経過を観察しました。

その結果、4種類のがん細胞の全てで、細胞死が起きました。一方で、がん細胞ではない、正常細胞にも同様に核酸を投与したところ、こちらでは細胞死は見られませんでした。つまり、がん細胞にのみ細胞死が誘導されたのです。

従来の抗がん剤「ドキソルビシン」と異なり、用いた人工的な核酸RNAの投与は、がん細胞に対して特異的に細胞死を誘導する

核酸であるRNAの刺激で、抗がん剤と同じ効果をもたらした、ということでしょうか。しかも正常細胞には影響がないというのは、驚きです。

抗がん剤として有名なドキソルビシンは、細胞の増殖を抑えることで、がん細胞を細胞死させます。しかし分裂している正常細胞にも同じ効果を及ぼすため、髪が抜ける、貧血になるなどの副作用が起きてしまいます。合成RNAの投与による細胞死が本当にがん細胞のみに働くのであれば、患者さんの負担を大きく軽減できる可能性があるのです。

次に、どの部分のがんに対しても同じ効果があるのか確かめるため、55種類のヒト由来のがん細胞株を用いて解析しました。結果、骨髄やリンパ節などの造血器由来のがん細胞株では効果が低いが、その他のほとんど全ての部位のがん細胞が細胞死することを確認できました。

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