おっしゃる通りです。単に、大きな信号にそのまま逆演算を使用するだけなら、他筋電と一緒に胎児心電も消えてしまいます。ここで、本システムの持つ機械学習技術が重要な役割を果たします。
前回のインタビューでは「人によって個人差はあるが、胎児の心拍数は1分間に約120回、お母さんは約90回」ということをお話ししました。装着する時間が長くなればなるほど、母子からの抽出データが蓄積されます。累積したデータを解析することによって、たとえば「この信号が胎児心電である」などの推測ができるようになります。これはデータを蓄積すればするほど、より高精度の推測が可能になります。逆位相をあてるだけでなく、目標の信号を「予測して保護」することによって、微細な信号でも問題なく収集することができるのです。また、スマートフォンのアプリで、他の胎児と健康状態を比較することも可能になります。
ご家庭で、体温計で熱を計測することと一緒ですね。毎日見ることで、違いに気づくことができるようになります。
この概念は、胎児心電だけでなく、他にも応用できます。
たとえば、橋梁の状態確認です。産婦人科医のみならず、インフラ点検の現場でも、人材不足が深刻化しています。特に地方自治体において、高度経済成長期に建築されたものは50年近い時間がたっており、老朽化が顕著です。崩落の可能性がある橋が多数存在するとも聞きます。
そこで、シートセンサの出番です。100〜200ミクロンという小さな歪みを、高額な専門機器で検査するのと同じ精度で「橋が崩落する兆候」をキャッチすることができています。また、常時計測のメリットを生かし、過去の統計データと抽出したデータを比較し、たとえば「この橋は3年後に崩落する可能性がある」「この橋は問題ない」など、リアルタイムで橋の状態を知り、補修が必要な橋の優先順位をつけることが可能になるかもしれません。全ての橋を検査せずとも、最も優先度の高い橋から検査していくことで、より効率的な補修が可能になるのです。