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マルチレーダによる多人数の非接触ヘルスケア計測が拓く安心社会 (第2回)

京都大学

Takuya Sakamoto

ここまでご研究を進めてこられた中で、とくに苦労されたのは、どの部分でしたか。

数式で厳密に記述できる電波と違い、人間は生体信号や運動の特徴などに個人差があります。できるかぎり多くのデータを集めて検証を繰り返しましたが、再現性が低いため人類共通の特徴、本質といえるものを見出すまでに、かなり時間がかかりました。

ただし、それこそこが人体の面白い側面だと思っています。人間の生命現象は数学的に記述することが難しいからこそ試行錯誤が必要であり、答えが見つかった時には大きな喜びが得られるのです。

前回、心拍の測定に適した部位の一つとして足底を挙げたが、これは偶然発見した。足底から心拍の波形が見えた時は声をあげて驚いたほど、全くの予想外だった。人体は本当に面白い

先生の研究テーマ「電波×人体」は、ヘルスケア以外にも応用できそうです。

先ほどお話ししましたが、心拍からは心理的ストレスの計測も可能なため、たとえばカフェに設置すればお客さんがリラックスしているかどうか、映画館に設置すれば観客がどのタイミングで興奮するかなど、エンターテインメント分野にも応用できると期待しています。

ただし、本研究の中心となる目的は多人数の非接触ヘルスケア計測であり、そのコア技術の開発です。人々が日常的に過ごす場所で、非接触のセンサが一人ひとりの生体信号を常時モニタリングする。その実現に向けて、これからも研究を進めていきます。

最後に、一般研究助成制度に応募したきっかけと、これまでのご感想を教えてください。

一般研究助成のことは、所属大学からの情報提供で知りました。セコムはセンサを使ってセキュリティや見守りを実現していることから、自分の研究テーマとの共通点が多いと以前から感じていたこともあり、応募しました。

この3年間、研究費だけではなく、実用化を見据えた重要なアドバイスもたくさんいただくことができ、研究者として大きく成長させていただきました。そのうちのひとつが、継続審査でご指摘いただいた、心臓ペースメーカーやインプラント等の植込み型医療機器への影響です。

ミリ波は新しい技術のため、この周波数帯が医療機器に与える影響については、まだ知見がありませんでした。そこで研究計画にこの課題を追加し、調査を行いました。総務省が公開しているデータを確認、検討したところ、今回の実験条件では問題ないことが確認できました。引き続き、倫理検討委員会で詳しく調べていくつもりです。

セコム科学技術振興財団の研究助成制度は、社会の安全と安心の実現を目的とし、あらゆる分野の研究と真摯に向き合うとともに、研究者自身の成長までサポートしてくれる素晴らしい制度です。この制度を多くの研究者に知っていただき、ぜひ挑戦していただきたいと考えております。私自身も、助成を受けて進めたワイヤレス人体センシング技術の研究をさらに深め、社会への普及活動に尽力してまいります。今後とも変わらぬご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

助成金は、主に実験用機械の購入に使用した。呼吸や心拍の計測精度を評価するためには、接触型センサも必要になる。レーダ以外の幅広い計測装置を揃えることができ、実験環境が充実した

日常的に人々の健康状態を見守ってくれる「マルチレーダによる非接触ヘルスケア計測技術」が、健康寿命の延伸はもちろん、Well-beingの実現にも繋がることがとてもよくわかりました。正しく使われるためのガイドラインとともに社会に届く日を、楽しみにしております。お忙しいなか長時間のインタビューにお答えいただき、誠にありがとうございました。

先生の所属や肩書きは取材当時のものです。
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