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住宅内移動時転倒のヒトと空間双方からのリスク評価標準化と予防サポートアプリ開発(第2回)

東京大学

Toshio Otsuki

研究を進めるうえで、とくにご苦労されたのは、どのような点でしょうか。

場面認識の精度向上のためには、AIの学習データとして室内画像が必要ですが、その入手には苦労しました。というのも、第1回でお話ししたように、インターネット上やデータセット内の室内画像は欧米のそれが中心で、また実際の生活環境からかけ離れたものが多かったからです。そこで、医療・介護福祉従事者の団体とタイアップして、現場スタッフにアプリの試用版を提供し、高齢者の住宅画像をできるだけ多く入手できないかと考えています。

また、コロナ禍が重なったため、医療関係者や高齢者へのアプローチが大きく制限されたほか、研究チーム内で意見交換を行うのが困難になりました。特にユニット間の連絡には苦労しましたが、リモートを導入するなどして、ここまで研究を進めることができてほっとしています。

最後に、一般研究助成を申請された経緯について教えてください。

共同研究者である田中敏明先生から薦めていただきました。田中先生をはじめ、当チームの中には過去に助成を受けた研究者が多く所属していたこともあり、申請を決意した次第です。

学問の発展や社会の安全安心は、学際的な研究によってのみ実現されるものだと思っています。しかし、学際的なアプローチは、既存の助成制度の対象になりにくい傾向にあります。確実に実現可能な内容でなければ、支援されない場合が多いようです。異分野を繋ぐバジェットである学際分野への研究助成は、ありそうでない、というのが実情です。

そのため、本研究のように、見込みはあるものの裏付けが必要な段階の研究に支援していただけるセコム科学技術振興財団の研究助成はひじょうに得難いものでした。深く感謝しております。また、二次選考の面接では多分野の先生方から、親身に、多角的な視点でコメントや助言をいただくことができ、たいへんありがたかったです。それも貴重な機会だったと思います。

個別の分野で基礎研究に専念しているだけでは、ここまで大きなテーマに取り組むことはできなかった。学際的な研究に助成していただけて感謝している

これから助成に応募する研究者へのメッセージをお願いします。

理系の学問は「これさえ実現できれば問題は解決できる」という一点突破型のスタンスで物事を考えがちです。しかし安心安全は総合科学であり、多分野が協力し合わないと実現できないものだと考えています。

したがって、安心安全の実現を目指した研究に取り組む際には「このボタンさえ押せば大丈夫」という思い込みは捨てて、人間や社会全体を見据えて、どのボタンを押せば安全安心が実現できるのか、熟考する必要があると思います。自分なりの哲学や世界観を持っていた方が、意義深い研究ができるはずです。

共同研究者の今枝秀二郞さん((株)日建設計総合研究所研究員)と。異分野や若手の研究者とのコラボレーションによって何が生まれ、どのような発見があるのか、たいへん楽しみにしている

転倒リスク評価の標準化と、転倒予防の観点から必要なサポートをユーザーに提案するアプリの開発が、高齢者のQOL向上と、安全安心な社会の実現に資することを心から願っております。長時間のインタビューにお答えいただき、誠にありがとうございました。

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