HOME > 研究者 > 大月敏雄先生 > 住宅内移動時転倒のヒトと空間双方からのリスク評価標準化と予防サポートアプリ開発(第2回)

高齢者の自宅での転倒は大きなダメージを伴うことが多いにもかかわらず、その詳細はブラックボックスに留まっています。安全安心な社会を作るためには、住宅内における高齢者の転倒リスクの低減が必須であるといえるでしょう。

この課題に対して、大月先生は学際的アプローチをとることで、個々の住環境や高齢者の身体特性に応じた転倒リスク評価手法の標準化に取り組まれました。そのうえで、住環境と高齢者に最適な転倒予防策を提供するアプリの開発を目指し、そのアルゴリズムの解明を目指されています。第2回では、身体機能データの入力や、ご研究で苦労された点、学際的研究の可能性などについて伺います。

まずは、前回のおさらいからお願いします。

高齢者の転倒は要介護状態となる要因の1つとされていますが、その大半は住宅内で発生しています。そこで本研究では、多分野の知見を活かして、特定の建築と特定の高齢者の身体特性を同時に考慮した転倒リスク評価法を標準化するとともに、高齢者個人に合った住宅内移動時の転倒予防策を提案するアプリの開発を目指し、そのアルゴリズムの構築に取り組みました。

まず、住宅改修の実態調査や、テキストマイニングによる転倒要素の抽出を行いました。また、AIの画像認識技術を用いて、ユーザーが部屋の状況をカメラで撮影すると、どの部屋かを把握できるようにし、アプリのプロトタイプを開発しました。そして、アプリのインターフェイスの構築方針を決めるために、医療及び看護スタッフにインタビューを行いました。

本研究の概要

前回は住空間のデータ取得についてご説明くださいました。身体状況のデータは、どのように取得されるのでしょうか。

本格研究2年目に、ヒトの歩行の特徴や転倒のメカニズム、高齢者と健常者の身体動作の違いについて調べるとともに、身体状況データを簡易的に取得し、住空間データと重畳する手法の確立を目指しました。具体的には、実験用の模擬住宅にて、モーションキャプチャとインソール型足圧(足の裏への圧力のかかり方)センサ、カメラ、さらにスマートフォンとタブレットも用いて、高齢者と健常者の身体動作と状況を計測しました。なお、高齢者の動作は、健常者が高齢者体験キットを着用して再現しています。

その結果、足圧や身体動作のデータと、カメラやスマートフォン、タブレットで得られた画像認識による身体動作状況のデータを統合する方法について知見が得られました。

(左)通常の状態での測定、(中)高齢者キットを装着しての測定、(右)ネットワークカメラを用いたトイレ内の記録

モーションキャプチャとインソール型足圧センサより取得した身体動作のデータ(上)、インソール型足圧センサから得られた左右の足圧のデータ(中)、モーションキャプチャで取得した重心(CoM:Center of Mass)・足圧(CoP:Center of Pressure)中心のデータと、空間を重畳した結果(下左:健常者、下右:高齢者)

この知見を活かして、翌年には、民泊施設にて健常者と高齢者の身体動作のデータ取得と解析を行いました。モーションキャプチャと足圧センサを用いて、体の動きと生活動作中の重心と足圧中心の位置を計測、その結果を統合して、動的安定性を計算・可視化しています。

なぜ民泊施設を使われたのでしょうか。

模擬住宅は実験施設なので、住宅での動きとそぐわない点があります。これに対し、民泊施設は実際に住宅として用いられているため、身体動作についてより精緻なデータの取得が見込めます。この施設で、2階の寝室から降りてきてトイレに入り、リビングで冷蔵庫の水を飲んでから寝室に戻る、高齢者の夜間の寝室-トイレ間往復の動きを再現しました。

高齢になると、入室して照明のスイッチを押す動作でさえも複雑になり、転倒リスクが高くなる
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