HOME > 研究者 > 大月敏雄先生 > 住宅内移動時転倒のヒトと空間双方からのリスク評価標準化と予防サポートアプリ開発(第1回)
住宅内移動時転倒のヒトと空間双方からのリスク評価標準化と予防サポートアプリ開発(第1回)

東京大学

Toshio Otsuki

それでは、具体的な研究内容についてお教えください。

準備研究では、アプリの仕様について、看護従事者にインタビューを行うとともに、介護保険を利用した住宅改修がどのように行われるのか、その内容や関係職種などを調査し、内容を整理しました。その結果、改修の際に適切なアドバイザーがいない場合があることや、アドバイザーがいる場合でも改修に関する情報に偏りがあることがわかりました。この課題は、本研究が目指すアプリの開発によって改善できると見込んでいます。

また、転倒の要素を抽出し、リスク評価の指標を構築するため、消費者庁の事故データベースをテキストマイニングして、転倒時の行動や因果関係、転倒の仕方などを分析しました。残念ながら、住宅内の転倒事例は少数でしたが、アプリの基盤となるべき情報はどのようなものか、情報学的見地からどのようなデータを集めて整理すればよいのかが明らかになりました。また、転倒のアルゴリズムを構築するために、事故報告のデータから、転倒の構造を効率よく把握する手法を確立しました。

テキストマイニングによる転倒要因の把握

アプリでは、住空間のデータをカメラ撮影によって取り込むとご説明くださいました。その仕組みについて教えてください。

まず、準備研究段階で、インターネット上で学習データとなりうる「部屋の画像」を探しました。これは、ユーザーが部屋の状況をカメラで撮影すると、どの部屋(居間、台所、寝室など)であるかをAIが認識できるようにするためです。データセットなどから、トイレや寝室など転倒リスクの高い場所の画像と、加工した画像をAIに学習させることで部屋の認識を可能にし、アプリのプロトタイプの開発に繋げました。

アプリのプロトタイプ:ユーザーが部屋の状況をカメラで取得すると、画像認識技術により室名と転倒防止のためのガイド情報が表示される

ただし、インターネット上のデータもそうだったのですが、学習データに用いたデータセットの住宅画像データは、欧米のものが中心であったため、和室や和式トイレなどの日本特有の空間認識が困難になる可能性があります。そこで、本格研究1年目は日本の住宅で見られる家具や什器類の画像を取り込みました。

住空間のデータ取得では、設計図も活用できそうですが、それは想定されなかったのでしょうか。

設計図では家具がどのように配置されているかがわかりませんし、平面図だけでは段差や勾配などを把握できません。また、ユーザーとして想定している医療および看護、介護福祉従事者の中には、建築学的知識を持たない人が多いと思われます。また、図面を逸失している場合も多いので、カメラで撮影さえすれば、部屋の状況が自動的に認識できるようにすることがベストだと考えました。

その上で、アプリの仕様や挙動の方針を決めるために、本研究チームの医療・看護従事者に、退院支援などで行う患者の自宅訪問調査の実態や、望ましいアプリについてインタビュー調査を実施しました。その結果、医療職の経験に過度に頼らなくてもよい段階があること、患者の予後予測や希望に基づいた住宅改修のアドバイスが求められていることがわかり、これに基づいてインターフェイスを設計することとなりました。

特定の住空間と、特定の高齢者の身体特性に応じた住宅内の転倒予防策の必要性や、アプリで住空間を認識する仕組みなどについて、わかりやすく教えていただき感謝いたします。次回は身体機能データの入力や、学際的研究の可能性などについても詳しくお聞きしていきます。

Copyright(C) SECOM Science and Technology Foundation