救急搬送事例の解析や、入院患者やその自宅の調査を建築学の立場や医学的な立場から行うことで、転倒の発生状況や、転倒・骨折のリスクが高い場所、また退院後の生活・住環境の変化などを明らかにすることができました。
しかし、転倒は様々な要因が複雑に重なり合って生じる現象であるため、多角的にアプローチする必要があります。また、転倒リスクの「見える化」は実現しつつあるものの、個別の身体状況が考慮されていない、2次元データでわかりにくいなどの課題が残されていました。
そこで、本研究では、医学、看護学、理学療法学、福祉工学、情報学などの研究者にご参加いただき、多分野の知見を活かして、高齢者の身体と住環境を同時に考慮した、標準的な転倒リスク評価法の確立を目指しました。それととともに、高齢者個人の身体特性に応じた住宅内移動時の転倒予防策を提供するアプリの開発を目指し、そのアルゴリズムの開発と、そもそもアプリが実現可能かどうかという点も含めて解明に取り組みました。
これまでの調査から、住宅内で大きな怪我を伴う転倒リスクが特に高いのは、トイレ、寝室およびその移動経路であることがわかりました。本研究では、この部分にフォーカスしています。
主要なユーザーとして想定しているのは、高齢者に直接接する機会が多く、そのニーズを把握しやすいケアマネージャーや訪問看護師、リハビリ担当医などの医療および看護、介護福祉従事者です。
最終的なアプリのイメージとしては、高齢者の身体状況データを簡易な方法で入力し、住空間データをカメラ撮影によって取り込むと、転倒危険箇所を示すアラート付きの住空間の画像が表示される、というものを考えています。ユーザーが介護保険を利用した住宅改修の申請を行う際に、参考にできるものを目指しています。

アプリの完成イメージ:住宅内で転倒リスクのある個所がアラート付きで表示され、場所ごとの転倒予防対策の事例が表示される
はい。介護保険を用いた自宅改修においては、手すりの追加がその大半を占めています。しかし、建築学の観点からみると、対象となる高齢者の身体特性が考慮されておらず、安全が十分に守られていない場合も見受けられます。
そこで、このアプリを使用することで、建築の専門知識を持たない在宅介護のスタッフでも、転倒リスクを正確に評価し、高齢者個人に合った転倒予防策を提案できるようにしたいと考えました。

介護保険を有効活用するためにも、対象となる高齢者にとって最適な転倒予防策を、アプリで提案できるようにしたい