HOME > 研究者 > 西山正章先生 > ヒト型モデル動物を用いた自閉症の神経回路の同定と治療法開発への応用 (第2回)

コミュニケーション障害と、物事への強い固執や繰り返し行動によって特徴づけられる自閉症は、年々患者が増加しており、社会的に大きな問題にもなっています。自閉症の発生には先天的な要因が大きいとされ、原因遺伝子は特定されつつありますが、根本的な治療法は確立されていません。

西山先生は、自閉症の主な原因遺伝子であるCHD8をヘテロ欠損させた自閉症モデルマウスを用いて、発症メカニズムの解明に取り組んでおられます。これまでに、CHD8の欠損によって異常をきたす細胞種を特定され、その影響でマウスの脳の神経回路に異常が生じていることも確かめられました。インタビュー第2回では、神経発生の異常が生じる時期や、治療応用への展望についてお伺いします。

まずは前回のおさらいとして、これまでのご研究の歩みについて教えてください。

2012年以降に自閉症患者における大規模な原因遺伝子探索が行われ、CHD8が自閉症患者において最も高頻度に変異している遺伝子であることが明らかになりました。このCHD8は、長年私たちが「がんに関わる重要な遺伝子」として研究を進めてきた遺伝子であり、研究室ではすでに自閉症モデルマウスとなるCHD8ヘテロ欠損マウスを維持していました。そのため、この報告を受けて私たちも自閉症研究に取り組む決断をしました。

その後の研究で、CHD8ヘテロ欠損マウスの脳で神経回路に異常が生じることを確かめました。異常な神経回路を人工的に操作することで自閉症様行動が改善されれば、ヒトの治療につながる大きなヒントになります。また、治療法確立のためには自閉症の発生時期を知ることも重要になります。こちらについても、時期特異的にCHD8をヘテロ欠損させたマウスを用いて解明に取り組んでいます。

自閉症モデルマウスを用いた研究計画の概要。自閉症の発生メカニズムを詳細に解き明かすことで、自閉症治療法の開発を目指す

この研究の目的の一つに「自閉症の発生時期を明らかにする」がありましたが、そのためにどのようなアプローチをされましたか。

胎生期の様々なタイミングでCHD8をヘテロ欠損させたマウスを作り、どの時点でCHD8が欠損すると自閉症になるのかを調べました。

自閉症になったかどうかの評価は、社会性試験を採用しました。2匹のマウスを箱の中に入れて、身体を接触させている時間を測るという簡単なものです。自閉症のコミュニケーション障害と聞くと、あまり他人と関わらないというイメージを持たれるかもしれませんが、この自閉症マウスは正常なマウスよりも「他のマウスと接触している時間が長い」という特徴があります。必要以上に接触し、離れようとしないという特性も、一種のコミュニケーション障害といえるでしょう。

実験の結果、胎生期のある時期にCHD8をヘテロ欠損させたマウスでは、接触時間が長くなる、すなわち自閉症の症状がみられましたが、それ以降にCHD8をヘテロ欠損させたマウスでは、正常なマウスとの差が見られませんでした。これにより、CHD8の欠損が自閉症の原因となる時期が特定されました。

生まれる前に、自閉症の発症を決定づける時期があるのですね。そのとき、胎児の脳の中で何が起こっているのでしょうか。

胎生期には幹細胞がさかんに分化し、さまざまな細胞や組織を形成していきます。そこでまず、社会性試験から示唆された「自閉症が発生する時期」に神経幹細胞から分化する細胞種を標識し、洗い出しました。

次に、これらの細胞種について、正常マウスとCHD8ヘテロ欠損マウスにおける遺伝子発現を比較することで、CHD8欠損の影響を受けているものを特定しました。すると、CHD8ヘテロ欠損マウスでは、抑制性ニューロンと、前回ご説明したオリゴテンドロサイトに関連する遺伝子の発現量が増加しており、この2種類の細胞の分化が通常より早まっていることが見えてきました。

神経活動は本来、抑制性ニューロンと興奮性ニューロンとのバランスで正常に保たれています。CHD8欠損による抑制性ニューロンの異常は、興奮と抑制のバランスの崩れが自閉症の原因であることを示唆しています。

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