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ヒト型モデル動物を用いた自閉症の神経回路の同定と治療法開発への応用 (第2回)

金沢大学

Masaaki Nishiyama

治療への応用については、どのような見通しをお持ちですか。

現在、行動中のマウスの神経活動をモニターして、異常な神経回路を光刺激によって操作することで行動に与える影響を解析しています。この操作によって自閉症の症状が改善されれば、治療応用の方針が見えてきます。

もちろん、ヒトに応用する場合には投薬での治療が望ましいでしょう。先にお話ししたとおり、自閉症の発生メカニズムの基盤に神経分化の異常がある可能性が見えてきました。したがって、神経回路への介入だけでなく、胎生期の神経分化を調節するというアプローチも考えられます。神経細胞が分化する段階で投薬による正常化が実現できれば、根本的な治療につながるかもしれないと考えています。

ただし、この分化は産まれる前に起こることなので、胎児の段階での診断が必要になります。母親あるいは父親の遺伝子がCHD8ヘテロ変異を持つ場合、子は一定の確率でその変異を受け継ぎ、自閉症になる可能性を持ちます。ヒトの胎児のDNA診断は技術的には可能ですが、胎生期の病気の治療については、倫理面の検討も含めて慎重に進める必要があります。

あらかじめマウスに手術をして脳に細い光ファイバーを埋め込んでおき、行動中の脳内の神経活動を記録する。マウスの手術には高度な技術が必要で、熟練のスタッフが担当している

現状では自閉症は症状から診断されているとのことですが、今後、CHD8をはじめとする原因遺伝子のはたらきが解明されてくると、遺伝子情報が診断基準になる可能性はありますか。

それは、まさに私たちが目指しているところです。自閉症の原因候補遺伝子はCHD8の他にも複数あり、さらに環境要因もあるとされています。今は「自閉症」という大きな括りになっていますが、さまざまなタイプの自閉症に分類できるはずです。私たちの研究は、そのなかの「CHD8変異型自閉症」の特徴づけをしているといえます。

自閉症はあまりにも広範な病態を含むので、すべてに効く薬はおそらくないでしょう。タイプ分けをして、タイプごとの原因や特性を明らかにすることが治療の鍵となります。遺伝子検査でCHD8変異が見つかれば「CHD8変異型の自閉症」という診断がついて、それに対して有効な治療が行える、そんな未来を期待しています。

今回のご研究において、とくに苦労された点を教えてください。

自閉症の研究を始めた当初は、この研究を進めていくための知識や技術が私自身に十分に備わっていないことを痛感しました。神経科学分野の知識に加えて、次世代シークエンス解析や電気生理学、行動解析など、これまで扱ったことのない新しい技術も必要でした。

そんな時にセコム財団の一般研究助成に採択していただいたおかげで、最新の設備を導入し、各分野の専門家の協力も得ながら研究体制を整えることができました。さまざまな新しい知見を得ることができ、着実に研究成果が上がっています。それらの成果は将来的に、新たな治療法の開発に寄与しうるものだと期待できるため、大きな達成感があります。

研究テーマをがんから自閉症へと転換されたことで、以前のテーマで得た知識や技術が生かされるなど、メリットを感じられたことはありますか。

はい。私は分子生物学を専門としてきましたが、研究室のスタッフには神経科学の専門家がいます。それぞれの専門知識を活かし、意見を出し合って協力することで、より良い方向に研究が進んでいます。

また、ここまで長きにわたってCHD8の研究を続けてきた研究者は、おそらく他にいないため、その点でもアドバンテージを感じています。自閉症患者には、神経の異常のほかに巨頭症や腸管異常、特徴的な顔貌などが共通してみられます。実は、腸管や骨の形成にもCHD8が関わっていることが分かり始めています。長年CHD8のさまざまな機能を分子レベルで研究してきたおかげで、CHD8の果たす役割を他の研究者よりも多面的に捉えることができていると思っています。

最初にCHD8の研究テーマを与えてくれた恩師の中山敬一先生からは「研究テーマには金・銀・銅がある。西山に渡したテーマは『鉄』のつもりだったのに、君の力で金にしてくれた」という言葉をいただき、とても嬉しかった
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