HOME > 研究者 > 中島友紀先生 >「健康寿命の促進を目指したロコモ・フレイル発症の機構解明とその制御法の開発」(第2回)

高齢化に伴って運動機能が低下・破綻するロコモ・フレイルを解決するためには、骨と筋肉の両方からのアプローチが必要であるにも拘わらず、いまだ別々の学問体系として研究されているのが現状です。

前回は骨と筋肉の両方を強化する分子の発見と、その分子がもたらす効果についてお話しいただきました。インタビュー第2回では、閉経後骨粗鬆症の新たな治療法と、これからの展望についてお聞きしました。

前回のおさらいとして、ロコモ・フレイルの制御法の研究について、概要をお話しいただけますか。

寝たきりになり、運動機能が低下・破綻した状態をロコモ・フレイルと呼びます。ロコモ・フレイルは骨・筋肉双方に異常をきたした状態であるため、同時に強化しなくては解決できません。本研究を進める中で、培養細胞を用いたハイスループットで大規模なケミカルライブラリーを用いたスクリーニングを軸に、骨と筋肉を同時に強くする候補ケミカルを同定し、マウスの筋繊維量と骨量が増加することを見出しました。現在は骨と筋肉を強化するメカニズムを解明するため、マウスおよびヒト細胞を用いた解析を進めています。

今回の助成を機に、先生のご専門である骨代謝分野においても一大発見をされたそうですね。

前回、破骨細胞と骨芽細胞による骨の再構築(骨リモデリング)のバランスが崩れたとき、骨粗鬆症になるというお話をしました。これは、骨吸収の速度が骨形成の速度を上回り、骨密度が低下するためです。
 骨粗鬆症は女性に多い病気で、女性ホルモンのエストロゲンは骨吸収を抑制することが知られています。閉経になるとエストロゲンの分泌が低下し、急激に骨密度が下がるため、閉経後の女性は同年代の男性よりも骨粗鬆症になる可能性が高いのです。

しかし、エストロゲンがどのように骨の細胞を調節・統合しているかは不明でした。私の研究グループでは、以前からSema3A(Semaphorin3A:セマフォリンスリーエー)と呼ばれるたんぱく質がその鍵となっていることを発見・報告していました。今回の研究で、その詳細なメカニズムを解明できたのです。

エストロゲンの骨吸収抑制のメカニズムが、Sema3Aの解析によって解明された

Sema3Aは、エストロゲンの骨吸収抑制に、どのように関わっているのですか。

まず骨細胞(骨を構成する細胞の9割を占め、骨芽細胞と破骨細胞と密接にコンタクトしている細胞)を様々な細胞外因子で刺激し、どれがSema3Aの発現を上昇させるのか調べました。その結果出てきたのが、エストロゲンです。「エストロゲンによって骨細胞のSema3Aが発現し、骨細胞自身の生存維持、そして、破骨細胞と骨芽細胞に作用することで骨恒常性を維持する」という図式が判明しました。

次に、骨芽細胞由来のSema3Aが、閉経後の骨粗鬆症に及ぼす影響を明らかにするために、骨芽細胞系の細胞においてSema3Aが欠失したマウスを作製し、その卵巣を摘出することで、閉経後骨粗鬆症モデルとなるマウスを用意しました。このモデルにエストロゲンを投与しても骨量維持効果が観察されなかったことから、骨芽細胞由来のSema3Aがエストロゲンによる骨量維持作用に重要な役割を担っていることがわかったのです。

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