HOME > 研究者 > 中島友紀先生 >「健康寿命の促進を目指したロコモ・フレイル発症の機構解明とその制御法の開発」(第2回)

先生はロコモ・フレイルに対しては骨だけではなく、筋肉など他の部位も統合して研究しなければならないという考えをお持ちですね。

運動機能の疾患は、骨や筋肉のみならず、脳機能とも密接な関係があります。たとえば、マウスの「暗闇に隠れたがる習性」を利用し、次のような実験を行いました。

マウスを飼育するゲージに暗闇の部分を用意し、マウスがそこに行くと微弱な電流が流れる仕組みです。通常のマウスであれば、暗闇に入って電流が流れる経験をすることで危険を学習し、暗闇に入らなくなります。しかし、咀嚼機能の低下により、咀嚼筋の低下や顎骨のみ骨粗鬆症になったモデルのマウスは、暗闇に入ることを止めませんでした。このマウスの脳神経を調べたところ、神経のシナプスがほとんど消失していたのです。

まだ詳細な分子機構を研究中ですが、咀嚼機能の低下が、長期記憶や好奇心、不安といった脳の高次機能に影響を与えたのだと考えています。

咀嚼機能を低下させたマウスを用いた、明暗試験箱による探索・認知の実験と結果

現在の医療は、糖尿病は糖尿病、心臓病は心臓病と、個別に取り組む形が主流です。

このマウスが示すように、脳は脳、筋肉は筋肉、骨は骨と分断して研究するのではなく、全ての分野を連関する視野で研究することが重要であると考えています。特に社会問題になるような課題は規模が大きく、複数の分野と絡み合っています。たとえば、運動機能の改善であれば、医学や生物学だけではなく、社会制度やIoTなども関わってきます。セコム科学技術振興財団のように「安全安心な社会の実現」をテーマとした学問分野にとらわれない助成制度が増えていくことを願っています。

それでは最後に、セコム科学技術財団に対してメッセージをお願いします。

他の助成財団と違う点は、審査員の先生方が研究内容を精査してくださり、これまでの成果をふまえて研究がさらに進展するよう多くの重要なアドバイスをいただけることです。そのような財団を、私は他に知りません。研究者を育て社会に貢献しようという強い心意気が審査員の方々から感じられ、とても励みになります。私自身がいつか何か審査員になったときは、セコム財団の審査員の先生方をお手本に、後進を育てられる存在になりたいと思っています。

本研究課題に主体的に関わっている小野岳人助教(左)と、林幹人助教(右)

ありがとうございました。ロコモ・フレイルを解決する分子が1日も早く製剤化されること、社会問題を複数の分野で横断的に研究できる枠組みが実現することを、願っています。

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