HOME > 研究者 > 中島友紀先生 >「健康寿命の促進を目指したロコモ・フレイル発症の機構解明とその制御法の開発」(第2回)

以前は「エストロゲンを投与すれば骨粗鬆症が治る」というのが一般的な解釈であったと思いますが、結果として「エストロゲンによって発現するSema3Aが骨量維持に重要である」ことが証明されたのですね。

はい。今回は閉経後の骨粗鬆症の治療を念頭においているため、閉経に伴うSema3A発現量を調べたところ、ヒト・マウス両方で発現量の低下が認められました。

そこで、骨芽細胞と骨細胞、それぞれのSema3Aが欠損したマウスを作成・育成し、高齢になった時点で骨を解析しました。すると、骨芽細胞Sema3Aノックアウトマウスの骨量は正常でしたが、骨細胞Sema3Aノックアウトマウスは加齢に伴い重篤な骨減少を起こしていました。

ヒト・マウスともに、閉経によってSema3Aの発現量が低下する

骨を作る骨芽細胞ではなく、骨細胞のSema3Aのほうが骨量維持に深く関わっているというのは、意外です。

これらのマウスの骨を調べたところ、骨細胞の数が大幅に減少していました。骨細胞をSema3Aで刺激したところ、可溶型グアニル酸シクラーゼ(sGC)活性化が誘導され、環状グアノシン一リン酸(cGMP)を介して、細胞の生存シグナルが活性化することがわかりました。つまり「Sema3Aが欠損すれば、sGCが活性化されず、細胞の生存シグナルが途絶えてしまう」ということです。この経路が、Sema3Aが骨の恒常性を維持するメカニズムの真相と言っても過言ではありません。

さらに驚くべきことに、骨芽細胞系列でのみSema3Aが欠失したマウスの卵巣を摘出し、sGC-cGMPシグナルを活性化させる薬剤「sGC活性化剤」を投与すると、骨細胞数が上昇し、卵巣摘出後のエストロゲン欠乏に伴う骨量減少を抑制することが明らかになりました。

加齢に伴う骨細胞Sema3Aの低下が、骨細胞生存シグナルを途絶えさせ、骨破壊と骨新生のバランスを崩していた

「Sema3Aがなくても、sGC-cGMPシグナルを活性化すれば骨の恒常性が維持される」という理解でよろしいでしょうか。

正確には「人の閉経と同様に、エストロゲンの欠乏したマウスにおいて、sGC活性化剤で骨恒常性を維持できる」ということです。このsGC活性化剤による効果も、Sema3Aなしには発見できませんでした。

最も重要ことは、骨細胞自身のNrp1を介してSema3AがsGCを活性化し、cGMPを介して骨細胞生存シグナルが活性化する「自己制御ループ」を形成していたことが判明したことです。Sema3AやsGCを標的とした治療法が開発されれば、骨粗鬆症をはじめとする骨関連疾患の新たな治療に繋がるでしょう。

Sema3Aによる骨細胞の自己制御ループの発見は、今後の骨代謝学研究に先導的な意味を持つと考えられる
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