まず、伝達比がねじれていない一般的なケースからお話しします。「メンデルの遺伝の法則」では、染色体は互いに独立かつランダムに遺伝するとされています。例えば、1番染色体と3番染色体が子から孫に引き継がれるとき、孫A:1番染色体・3番染色体(どちらも祖父)、孫B:1番染色体(祖父)・3番染色体(祖母)、孫C:1番染色体・3番染色体(どちらも祖母)、孫D:1番染色体(祖母)・3番染色体(祖父)、の4タイプが同じ比率で生まれる、とされているのです。
ところが本研究では、独立して動くはずの2つの染色体が一緒に引き継がれているケースを発見しました。
マウスのMeis2遺伝子座のエンハンサー(遺伝子を作る命令をする場所)のはたらきを調べるなかで、偶然この現象を見つけました。
親から子への遺伝では、母方由来と父方由来の同じ遺伝子がペアで引き継がれます。そこで、Meis2遺伝子座のエンハンサーを片側だけ欠損させたマウスを作り、欠損のないマウスと掛け合わせる実験を行っていました。
欠陥を引き継いだオスから1匹選んで、欠損のないメスと掛け合わせると、孫の世代では、欠損のあるオス、欠損のないオス、欠損のあるメス、欠損のないメスの4タイプが存在します。メンデルの法則に則れば、4タイプの存在比は等しくなるはずです。しかし実際には、欠損のあるオスと欠損のないメスが極端に多かったのです。世代を重ねるとついに、全てのオスが欠損を持ち、全てのメスが欠損を持たない世代が生まれました。
そうです。一つの可能性としては、欠損を持つメスが致死であるという可能性もありましたが、さまざまな観察の結果、この可能性は排除しました。性染色体の組み合わせはオスがXY、メスはXXですから、オスの大部分が欠損を受け継いだという結果は、欠損した染色体が、Y染色体と一緒に動いていることを示唆します。これは、遺伝学の常識から逸脱した現象です。
現象を見つけたのは偶然ですが、一つの場所でそうなるということは、少なくともメカニズムとして存在することは確かです。逆に、今回のケースは性染色体と一緒に動いているので見つけやすかった、とも言えるのです。もし常染色体どうしで類似の現象が起こっていたとしても、気付かれないまま引き継がれてしまうためです。したがって、まだ発見されていないだけで、より普遍的な現象である可能性もあります。

マウスの飼育と管理は、動物を扱う研究ならではの苦労。大量のマウスを適切に維持・管理するためには、共同研究者でもある奥様の協力が欠かせない