HOME > 研究者 > 近藤隆先生 > ゲノム変動に対する経世代交代による生存適応の機構解析(第2回)

染色体の高次構造に着目し、遺伝子の発現を制御する仕組みを解明してこられた近藤先生。前回のインタビューでは、遺伝子の変異に対応する適応進化のメカニズムについてもお話しいただきました。

インタビュー第2回では、異なる染色体が一緒に遺伝する「伝達比のねじれ」の発見と、その現象を引き起こす染色体のはたらきについてお話を伺いました。

今回新たに発見された「伝達比のねじれ」とは、どのような現象ですか。

まず、伝達比がねじれていない一般的なケースからお話しします。「メンデルの遺伝の法則」では、染色体は互いに独立かつランダムに遺伝するとされています。例えば、1番染色体と3番染色体が子から孫に引き継がれるとき、孫A:1番染色体・3番染色体(どちらも祖父)、孫B:1番染色体(祖父)・3番染色体(祖母)、孫C:1番染色体・3番染色体(どちらも祖母)、孫D:1番染色体(祖母)・3番染色体(祖父)、の4タイプが同じ比率で生まれる、とされているのです。

ところが本研究では、独立して動くはずの2つの染色体が一緒に引き継がれているケースを発見しました。

どのような実験でその現象を発見されたのですか。

マウスのMeis2遺伝子座のエンハンサー(遺伝子を作る命令をする場所)のはたらきを調べるなかで、偶然この現象を見つけました。 

 親から子への遺伝では、母方由来と父方由来の同じ遺伝子がペアで引き継がれます。そこで、Meis2遺伝子座のエンハンサーを片側だけ欠損させたマウスを作り、欠損のないマウスと掛け合わせる実験を行っていました。

欠陥を引き継いだオスから1匹選んで、欠損のないメスと掛け合わせると、孫の世代では、欠損のあるオス、欠損のないオス、欠損のあるメス、欠損のないメスの4タイプが存在します。メンデルの法則に則れば、4タイプの存在比は等しくなるはずです。しかし実際には、欠損のあるオスと欠損のないメスが極端に多かったのです。世代を重ねるとついに、全てのオスが欠損を持ち、全てのメスが欠損を持たない世代が生まれました。

遺伝子の欠損を引き継ぐかどうかが、性別に影響されるのですか。

そうです。一つの可能性としては、欠損を持つメスが致死であるという可能性もありましたが、さまざまな観察の結果、この可能性は排除しました。性染色体の組み合わせはオスがXY、メスはXXですから、オスの大部分が欠損を受け継いだという結果は、欠損した染色体が、Y染色体と一緒に動いていることを示唆します。これは、遺伝学の常識から逸脱した現象です。

現象を見つけたのは偶然ですが、一つの場所でそうなるということは、少なくともメカニズムとして存在することは確かです。逆に、今回のケースは性染色体と一緒に動いているので見つけやすかった、とも言えるのです。もし常染色体どうしで類似の現象が起こっていたとしても、気付かれないまま引き継がれてしまうためです。したがって、まだ発見されていないだけで、より普遍的な現象である可能性もあります。

マウスの飼育と管理は、動物を扱う研究ならではの苦労。大量のマウスを適切に維持・管理するためには、共同研究者でもある奥様の協力が欠かせない
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